Zorki 1(ゾルキー1)と旧ソ連製レンズの話。ソ連のカメラってダメなの?

Zorki 1(ゾルキー1)とロシアレンズの話。ロシアカメラってダメなの?

みなさんこんにちは。

フィルムカメラ系VTuberの御部スクラです。

今日はこのカメラを紹介します。
旧ソ連のレンズ交換式レンジファインダーカメラ、ゾルキー1(Zorki1)です。

ゾルキー1(Zorki1)

ゾルキー1は、見た目からわかるとおり、バルナックライカをコピーしたカメラ、いわゆるライカコピーです。
Camera-wikiによると、最初に登場したのが1948年。
細部のバリエーションによって、タイプ1a型から1e型まで愛好家によって分類されているのですが、このゾルキー1は、シリアルが上面にあるのでおそらくタイプ1c型です(今回はシリアルをテープで隠しています)。
この1a型とか1b型とか1c型とかってネーミング、誰が最初にはじめたんですかね?
ソースが不明です。

Zorki 1(ゾルキー1)の外観とスペック

Zorki 1

Zorki 1

Zorki 1

Zorki 1

レンズマウント:ライカマウント(L39マウント)
シャッター:横走り 布幕フォーカルプレーンシャッター B、20秒~1/500秒
巻き上げ:ノブ巻き上げ
カウンター:順算式、手動設定
フォーカシング:二眼式の連動距離計
使用フィルム:35mmフィルム
製造開始時期:1948年
製造:クラスノゴルスク機械工場(KMZ)

ゾルキー1の特徴

では、カメラ本体の特徴を見ていきましょう。

最初に話したとおり、バルナックライカコピーで、基本的なつくりは同様です。
操作方法も同じです。

バルナックライカコピーで、基本的なつくりは同様

スローシャッターがついておらず、距離計とフレーミングの2つのファインダー覗き窓が離れているので、バルナックライカのライカII(ライカDII)をコピーしたもの、ということになります。
ライカDIIと同じく、ストラップ金具はついていません。

ストラップ金具はついていません

シャッター速度もライカDII同様1/500秒までです。

ライカDIIとの違い

では、どんなところがライカDIIと違うのかというと……。

まず外観では、ビューファインダーの周りが、加工しやすい形状に簡略化されています。

ビューファインダーの周りが、加工しやすい形状に簡略化

旧ソ連製のライカコピーをひと目で見分けられるポイントですね。

また、カメラ内部のフレームや外装部品はダイキャストで作られていて、これも板金で作られたライカDIIとは異なります。
ちなみに旧ソ連製のライカコピーでも、フェド1は板金製です。

旧ソ連のライカコピーの有名な点として、距離計連動アームの先端も形状が簡略化されています。

距離計連動アームの先端も形状が簡略化

ライカではここはローラーになっています。

ライカではここはローラーになっています

ただ、実用で問題を感じたことはいまのところないです。

また、これはゾルキー1での初期のものはそうなっていないらしいのですが、シャッターボタンにケーブルレリーズをねじ込むことができるようになっています。

シャッタードラムが見える

レンズマウントの中は、左右に遮光板がなく、シャッタードラムがむき出しです。

左右に遮光板がなく、シャッタードラムがむき出し

勘違いしていたんですけど、これは簡略化してそうなったのではなくて、オリジナルのライカDIIでもここはむき出しなんですね。

レンズマウントはライカスクリューマウントです。
初期のFED1はマウントの互換性がないことが知られていますが、ゾルキー1については問題なくライカマウント用のレンズを使うことができます。

旧ソ連製定番ライカマウントレンズ

旧ソ連製定番ライカマウントレンズ

旧ソ連製カメラの魅力といえば、やっぱりレンズだと思います。

旧ソ連ではカメラやレンズを異常なほど大量生産したようで、いまでも無尽蔵かと思われるほどの量がebayなどで販売されています。

Jupiter ツァイスに由来するレンズ

第二次世界大戦後、ドイツのカール・ツァイスの技術者や製造設備を旧ソ連の国内に持っていったことは有名ですが、その流れでツァイスのレンズの影響下にある製品が多数作られています。
レンズの歴史について生半可な知識で言及するのはちょっと危ないですが、ゾナータイプやビオゴンタイプのレンズが大量生産されたのは事実です。

具体的には、
ゾナー5cm F1.5をもとにしたJupiter-3 5cm F1.5。
ゾナー5cm F2をもとにしたJupiter-8 5cm F2。
ゾナー8.5cm F2をもとにしたJupiter-9 8.5cm F2。
ビオゴン3.5cm F2.8をもとにしたJupiter-12 3.5cm F2.8。

カメラが趣味の人の間でとくに人気があるのはこの4つですね。
これらに共通していえるのは、値段がとても安いということ。
近年、「オールドレンズ」のブームで、とくにジュピター3やジュピター9は以前に比べると値上がりしてしまいましたけど、製造数が非常に多いジュピター8などは、5,000円も出せばebayで良品が買えます。

ジュピターは製造年代によって外観のデザインなどバリエーションが多くあります。
いま写っているジュピター8は、黒い外装の比較的最近作られたものです。

Industar 廉価なレンズ

それから、テッサータイプのもっと廉価なレンズである、焦点距離50mm前後のインダスターも、普通によく写って、異常なほどに安いのでレンジファインダーカメラ入門に便利です。

Industar-50 50mm F3.5 沈胴

標準レンズのインダスターの定番品は以下の通り。

Industar-10 50mm F3.5:エルマーっぽい見た目の沈胴レンズ。
Industar-22 50mm F3.5:エルマーっぽい見た目の沈胴レンズ。絞りを操作する部分の形状が違う。
Industar-26M 50mm F2.8:固定鏡筒の標準レンズ。非常に安い。
Industar-50 50mm F3.5:沈胴と固定鏡筒がある。固定鏡筒は非常に安い。
Industar-61 50mm F2.8:固定鏡筒の標準レンズ。非常に安い。

とくにインダスター26Mとインダスター61は、ebayでは実用可能なものが下手をすると2,000円くらいで買えてしまいます。

ただし、ジュピターにもインダスターにも、ライカスクリューマウント以外のレンズマウントの製品も存在するので初めて買う方は気をつけましょう。

ゾルキー1とジュピター8の作例

では少し、実際にゾルキー1とジュピター8 50mm F2で撮影した写真を見ていきましょう。

使用フィルム:ADOX Silvermax
現像液・条件:Parodinal 1:25 20℃ 8分

旧ソ連製のカメラというとまともに撮影できないと言われることも多いですが、このように全然普通に写るんですよ。

ゾルキー1とジュピター8の作例

ゾルキー1とジュピター8の作例

今回は日中屋外なので絞ってしまっていますけど、ジュピター8は開放でも全然使えるレンズですよ。
以前はよく、ミラーレスのカメラにアダプターでつけて常用していました。

それから、このあたりの写真、かなり近距離で撮影していますけど、多少絞り込んでいるとはいえ、ゾルキー1の連動距離計、調整すればぜんぜん普通にピントが合うんですよ。

ゾルキー1とジュピター8の作例

ゾルキー1とジュピター8の作例

わたしは本物のバルナックライカも触ったことは普通にありますけど、旧ソ連のカメラ好きなんです。
それは、ガシガシ実用しても大丈夫だからです。

ゾルキー1とジュピター8の作例

もちろんメンテナンスしてあることは前提ですけれど、旧ソ連の他の工業製品もそうなのかもしれないですけど、多少手荒に扱っても壊れないようにできている感触とか、多少のあそびがある感じ、使っていて安心感があるんですよね。

ゾルキー1とジュピター8の作例

ゾルキー1とジュピター8の作例

旧ソ連のカメラってダメなの?

旧ソ連のカメラってダメなの?

というわけでゾルキー1について見てきたんですけど、旧ソ連のカメラについてよくいわれる印象、についても話したいと思います。

それは、旧ソ連のカメラは粗悪品で使えない、ということです。

整備すれば使える

結論からいうと、バルナックライカコピーの旧ソ連製カメラについていえば、きちんと整備すれば問題なく使えます。

もちろん、よくいわれるように巻き上げノブなどのローレット加工などが荒いのは事実ですし、外装のパーツの形状も簡略化されています。
ライカに比べればシャッターの音もうるさいでしょう。

でも、写真は撮れますし、実用性もあります。
安物の連動距離計カメラのように、レンジファインダーが設計上調整を考えられていないなんてこともありません。

このゾルキー1は一応整備したものなのですが、巻き上げがゴリゴリで重い、ということもありません。

手間とお金をかけて整備されないことが多い

ただ、ですね。
最大の問題は、わざわざ手間とお金をかけてまで整備されない、ということなんですよ。

この年代の布幕フォーカルプレーンシャッターは、使うためには幕の交換が必須です。
それ以外の部分もオーバーホールは必要です。

ところが、以前のクラシックカメラブームの時代ならまだしも、
いまとなっては、ニッカやレオタックスといった日本製ライカコピーのカメラのジャンクが、ゾルキー1のジャンクと同じくらいの値段で購入できちゃうんですよね。
カメラ屋さんが修理業者に頼んで商品にするとして、どちらを優先するかといったら、そりゃニッカやレオタックスだと思います。

そして、実用できるとはいいましたけど、カメラ屋さんが保証をつけるとして、ニッカやレオタックスと旧ソ連製のライカコピーだったら、つくりのよさからいって、旧ソ連のカメラに保証をつける気になれないのもわかります。

わたしは自分で幕を交換してこのゾルキー1を使っているんですけど、好事家じゃなくちゃやらないことだ、というのはそりゃそうなんですよね。

ようするに、旧ソ連製のカメラはしっかり整備すれば問題なく使える。
けれど、カメラ屋さんが商品として扱うにはちょっと厳しい、ということです。

逆にいえば、初心者の方が初めてフォーカルプレーンシャッターの幕交換を自分でやってみるのには、ゾルキー1は最適なカメラだといえます。
バルナックライカ自体が非常に簡潔な設計で、しかもゾルキー1は頑丈につくられているので、ちょっとやそっとじゃ壊してしまうこともないでしょう。

これからの時代、フィルムカメラを使っていくのに多少の修理知識が必要になると思いますが、ゾルキー1はこういったフォーカルプレーンシャッターのカメラについて知る上で、最高の教材になってくれるんじゃないかと思います。

旧ソ連製カメラの関連書籍

田中長徳 『ロシアカメラがむせぶ夜は』

田中長徳氏による読みやすいエッセイ。

じつはわたしがカメラをはじめた最初の頃に読んで、旧ソ連のカメラというものに興味をいだいたきっかけになった本です。

ハラショー! ロシア&旧ソビエトカメラの世界

旧ソ連製カメラについての話題でよく名前が上がるムックです。

(なぜかAmazonの商品ページがダブっています)

まとめ

というわけでゾルキー1のお話でした。

いろいろと話してきましたけど、わたしは普段写真を撮るのに使うなら、バルナックライカよりもこのゾルキー1が好きです。
ようするに、精密な工芸品よりも多少の雑さが許される実用品が好きなんでしょうね。

旧ソ連製のカメラ、ドイツや日本のカメラとは文化がまったく違うので触ってみると面白いですよ!
ぜひヤフオクやebayで探してみませんか?

これからも旧ソ連製のカメラ、取り上げてみたいと思います。
ありがとうございました。
御部スクラでした。