新世紀エヴァンゲリオン TV版9話で描かれたフィルム時代の写真について語る

新世紀エヴァンゲリオン TV版9話で描かれたフィルム時代の写真について語る動画

みなさんこんにちは。
フィルムカメラ系Vtuberの御部スクラです。

今回は「アニメにおけるフィルム写真についての描写」の話です。

この台本を書いたのは2021年3月で、まさにシン・エヴァンゲリオン劇場版:||が公開された直後なので時事ネタそのものなのですが、
取り上げるのはエヴァのTV版9話 「瞬間、心、重ねて」です。

この記事では、引用の要件を満たしていると判断し、株式会社カラーが権利を持つ1995年放映のTV版 『新世紀エヴァンゲリオン』 第9話 「瞬間、心、重ねて」よりスクリーンショットを引用しています。

「瞬間、心、重ねて」のフィルム描写

瞬間、心、重ねて

さて、このエヴァ第9話は、前回来日した惣流・アスカ・ラングレーがシンジと共同生活する回ですが、
今回取り上げるのはその内容の前、冒頭も冒頭です。

わずか1分くらいのシーンなのですが、たったそれだけの間に、いまとなっては資料性の高い描写が詰め込まれているんです。

写真を売りさばくシーン

冒頭、ケンスケがアスカのことを盗撮して、写真を売りさばくというシーンがあるんですね。

このシーン、ほんとうに、エヴァが放送された1995年当時、写真というものがどうやって扱われていたかということを、非常にリアルに描いているんですよ。

生写真申込書と写真の値段

まず、この生写真申込書。
左隅に「大サービス 1枚30円」と書かれてますよね。

生写真申込書

これが表しているのは、これは商品なので1枚30円で販売して利益が出ていたということなんです。

この写真はフィルム写真です。
ということは現像するのにお金がかかりますし、写真を1枚プリントするごとにプリント代がかかります。

そして、ケンスケはカメラマニアとしてのキャラクター造形がされていますが、中学生が自宅でカラーフィルムの現像やプリントをすることは設備面と費用面で現実的ではありません。
マニアならモノクロ現像とプリントはやっていた可能性がありますが。

ということはお店で現像とプリントをしてもらったわけです。

それでは、この1枚30円という値段が本当にリアルなのかということなのですが、
まず、肌感としては、ありえる値段設定だといえます。
わたしは1990年代にはまだ子供でしたが、値引きをしていない写真屋さんのプリント価格が1枚30円が相場。
安売りをしている写真屋さんになるともっと安かったと記憶しています。

そのことは、実際の資料でも裏付けられます。
それがこのネガ袋です。

たとえばこのネガ袋には、エヴァが放映された直後の1996年の日付が書かれていて、現像と、26枚のプリントあわせて税込711円です。

現像と、26枚のプリントあわせて税込711円

26で割ると1枚あたり27.3円。

またこちらのネガ袋では、現像と23枚分のプリントの合計が693円です。

現像と23枚分のプリントの合計が693円

693を23で割ると約30円強になって微妙に足が出てしまうのですが、ここで大事なのは、プリントするだけなら安かったということです。

ここでまた、別のネガ袋(郵便番号が3桁なので1997年以前)を見るとプリント(焼き増し)は1枚あたり10円。

プリント(焼き増し)は1枚あたり10円

ということで、ケンスケは写真を売れば売るほど儲かったであろうといえるのです。

ネガ封筒・ネガ袋

次に、アスカの写真が入っている袋。

アスカの写真が入っている袋

写真に現像を出すと、こういう袋にプリントとネガが入って帰ってきたんですね。

フィルムカメラをやっている人にとってはこんなこと説明する必要ないのは当然なのですが、こういう、当時当たり前だったものって、
ちゃんと説明しないと残らないんですよ。
学生のとき歴史系の研究者の先生が言っていたエピソードで「あなたは江戸時代の人が一日何回ごはんを食べていたか知っていますか?」というのがあったのですが、普通に知らないじゃないですか。ちなみに一日2食だったらしいんですけど。
でも、江戸時代に生きていた人にとっては常識だったわけです。

同じように、フィルムカメラを使っていた世代の人にとって、ネガ袋というのはわざわざ説明しなくてもわかるものだったのです。

この袋は富士フイルムの純正現像のものです。
まったく同じデザインのものは持っていなかったのですが、似た感じの色のラインが入った袋はスキャンしていました。

似た感じの色のラインが入った袋

袋に書いてあるフジカラー スーパーGはフィルムの製品名で、富士フイルムの、当時一般用に販売されていた製品です。
ネット上から公の文献を見つけることができなかったので、awane-photo.com様の2008年の記述から引かせていただくのですが、
http://diary.awane-photo.com/2008/080609.htm

フジカラースーパーGが出たのは1992年ということです。

まさにエヴァ制作当時に販売されていたということですね。

ネガシート

次に。
トウジとケンスケがネガシートに入ったネガを空の光で透かして見るシーンがあるのですが、
これまたリアルなんですよ。

ネガを空の光で透かして見るシーン

ネガを空の光で透かして見るシーン

ネガシートの描写がまさに本物、というか本物のネガシートを撮影して使った可能性が高いですね。
色を反転してみたのですが、ネガに写っている写真はちゃんとアニメのキャラクターになっていました。

ネガを空の光で透かして見るシーン

盗撮という描写

そしてもうひとつ。

ケンスケが撮影した被写体も、いまとなっては資料性が高いです。

ケンスケが売りさばいた写真の被写体のひとつが、アスカをはじめとする女子生徒が着替えているところの盗撮なんです。

盗撮

これ、いまやったら完全に犯罪です。
捕まりますし、いまのアニメだとギャグとしても成立しづらいでしょう。

ですが、写真の文化の裏面として、盗撮写真というものが存在したんですよね。
わたしはリアルタイムではその時代を知りませんが、TwitterなどのSNSで、盗撮写真というジャンルが存在したというそのあたりの出来事を、ちゃんと歴史に書き残さなくてはということを書いている方がいて、そういう裏面、B面の歴史を意識するようになりました。

例:書影がないのですが、盗撮の方法について解説した書籍
馬場憲治 『アクション・カメラ術 : 盗み撮りのエロチシズム』 1981年、KKベストセラーズ

https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001497348-00

エヴァに盗撮のシーンが描かれたということ、これ実はすごく重要だと思います。

たとえば、わたしたちが100年前の文化について論じるとき、「当時の小説にこういう描写があるから、当時こういうことが一般に行われていた」という論じ方、やりがちじゃないですか。
もちろん、実際にその文化がどれくらい一般的なものだったかは当時の人にしかわかりません。

例としては、1960年代にビートルズを聞いていた日本人は本当に流行の文化が好きだった人だけで、ビートルズにリアルタイムでは興味がなかった人が、じつは本当は多数派だったなどと言われたりもします。

そういうことからいうと、このエヴァ第9話における写真の描写というのは、最終話は1996年の3月なのでTV版からすでに25年くらい経ちますが、1990年代に、普通の人がどうやって写真を使っていたか、見ていたかということのタイムカプセルに、期せずしてなってしまったのです。

なにも考えずに描写したことが重要

一応言っておくと、エヴァの時代設定は2015年ですが、フィルムを使って撮影しているのは、たぶんそこまで考えないで描写したんだと思います。
一般にデジタルカメラが普及するきっかけになったとされているカシオ QV-10の発売が1994年の11月。
エヴァの制作当時は、まだまだマニアの道具でしかありませんでした。

この「何も考えず普通に描写した」ということ。
これはとても重要だと思います。

この後の時代にもフィルムカメラが描写されたアニメというのはありますが、2000年代になると、あえてフィルム写真を描くことは、意図を持って行われることになってしまいます。
いっぽう、このエヴァにおける描写は、なにも考えていないからこそ、当時の人が、普段写真をどうやって使っていたということを、素で記録することにつながった、というわけなんです。

最後に

というわけで、エヴァのTV版第9話における写真の描写についての話でした。

デジタルカメラが登場する以前、フィルムカメラしかない頃に写真がどうやって使われていたかということは、そろそろ意識的に記録しないと残らないと思うんですよ。
そういう点で、こういう自然体の描写というのはとても貴重だと思います。

ありがとうございました。
御部スクラでした。