実際にポルノ雑誌、とくに東販や日販といった取次を介さずに流通していたいわゆるビニ本や自販機本の制作に携わっていた著者が、ポルノ雑誌についてひとつの歴史をまとめた一冊。
こういったアダルトな媒体というのはサブカルチャーや人文学の文脈でも頻繁に扱われているテーマだろう。
本書が類書と異なるのは、作者が制作に携わる中での肌感に基づいて書かれていることである。
エロ本とはなにによって作られているかといえば、写真である。
エロ本を作ることは、写真を撮ることである。
著者もまた機材を買い揃えカメラマンを担当したとのことだが、その知識に裏付けられた、同業者についての細かい描写にはとくに目をみはるものがある。
たとえば1970年代中頃まで、ポルノ雑誌のカメラマンは現場に慣れたベテランが担当することが多く、撮影の手際は良いがストロボに慣れていなかったためアイランプで撮影することが多かったこと。
スタジオ撮影用のストロボは高価なため、貧乏カメラマンはナショナルのグリップストロボに傘の2灯で撮影するのが定番だったこと。
実用品として使われていたハッセルブラッドのうち結構な数がエロ本の制作に使われていたということ。
写真をやっている人、写真史に興味がある人にとって目から鱗が落ちるような、日本戦後写真史の裏側が描き出されている。
著者はその後小説家としても活躍。
2000年代には2chカメラ板のコテハンとしても活動し、同人誌の『銀塩万歳』にも参加したという。
詳しくはWikipediaに著者の項目があり、現在もblogが更新されている。
↓Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B7%9D%E6%9C%AC%E8%80%95%E6%AC%A1
書誌情報
2011年、筑摩書房、初版。
ちくま新書927
2021年4月現在版元品切
筑摩書房公式サイト内の書籍紹介
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480066312/