皆さんこんにちは!
フィルムカメラ系VTuberの御部スクラです。
今回はCanonのフィルムカメラ、PELLIX QLについて話します。
Contents
Canon PELLIX QLの外観とスペック
レンズマウント:FLマウント(FLマウントは正式名称なのでしょうか?)
シャッター:横走り金属幕フォーカルプレーンシャッター B、1秒~1/1000秒 シンクロ速度不明(Canonカメラミュージアム、専科31ともに具体的な露光時間記載なし)
巻き上げ:レバー式、1回巻き上げ(分割可)
露出計:TTL絞り込み測光、部分測光(中央部12%)CdS受光素子
カウンター:順算式、自動復元
フォーカシング:マニュアルフォーカス
電源:MR9水銀電池 x1
使用フィルム:35mmフィルム
発売年:1966年(QLではないPELLIXは1965年)
発売時価格:60,800円(FL 50mm F1.4 II型付)
製造元:Canon
参考文献:『クラシックカメラ専科 No.31 キヤノンハンドブック』1994年、朝日ソノラマ、pp.61-62
Canon PELLIX QLについて
Canon PELLIXは1965年に登場したフィルムカメラ。
このPELLIX QLは、QL、クイックローディング機構を組み込んだモデルで、1966年に登場しました。
値段はPELLIXが50mm F1.4 I型付で58,800円。
PELLIX QLは50mm F1.4 II型付で60,800円だったということです[1]『クラシックカメラ専科 No.31 キヤノンハンドブック』1994年、朝日ソノラマ、pp.61-62。
実質的にフラッグシップを担った非常に上質なカメラ
さて、このCanon PELLIXといえば名前の通り、クイックリターンミラーではなく半透過、固定式のペリクルミラーを使っていることが最大の特徴なのですが……
実際に触ってみたら、けっしてそれだけのカメラじゃないと感じたんですよ。
まず最初にこのカメラの印象から話します。
このCanon PELLIX(PELLIX QL)という機種は、当時のCanonのフラッグシップ機です!
各部のつくりが非常によくて、操作感も抜群。
CanonflexやCanonflex R2000とCanon 旧F-1の間、いわゆるFLマウントの時代のキヤノン製一眼レフが地味に感じられがちで、このPELLIXもフラッグシップとは思われづらい機種なのは事実です。
でも、このPELLIXはCanon初のTTL測光一眼レフ。そして新技術のペリクルミラー。ということでキヤノンの最上位モデルを担うのに不足はないんですよね。
ただ、ファインダーが交換できないことだけはこの時代の上位機種としては弱みになりますが……。
とにかく、メッキの質、剛性感、感触の良さ、1960年代のCanon製一眼レフはけっして他社に負けたものじゃないということが体感できるので、騙されたと思ってぜひ触ってもらいたい一台です。
Canon PELLIXの特徴
さて、それではこのカメラの特徴とスペックを見ていきましょう。
ペリクルミラー
まずは最大の特徴、ペリクルミラー。
Canonカメラミュージアムによると、半透明処理した20/1000mm厚の極薄フィルムをミラー位置に固定[2]「ペリックス – キヤノンカメラミュージアム」2022年10月11日閲覧
https://global.canon/ja/c-museum/product/film56.html。
ということで、その後F-1やNew F-1の高速モータードライブカメラやEOSに至るまでCanonのお家芸になるペリクルミラーを初めて採用した機種、ということになりますね。
このペリクルミラーが固定されているので、クイックリターンミラーのようにファインダーがブラックアウトすることはありません。
ただし、絞りは自動絞りなので絞り込んでいるときはシャッターを切るとファインダーが暗くなります。
これ、とくに絞り開放付近で撮影したときは操作している感じが一眼レフなのにファインダーが暗転しないので、脳がバグる感じになりますね。
いっぽう、これも有名な話ですが半透明ミラーで常時フィルム面とファインダーに光を振り分けているので、レンズの明るさは1/3段分暗く[3]「TTL測光のキヤノンペリックス」『クラシックカメラ専科 No.31 キヤノンハンドブック』1994年、朝日ソノラマ、p.39、もちろんファインダーも暗くなります。
ペリクルミラーの使用感
使ってみた感想としては、たしかにちょっと暗くなっています。
ただし、昼間は気になりません。
いっぽう夜や室内、ちょっと暗い場所になると50mm F1.4をつけていてもちょっとピント合わせがしづらくなるな、と感じました。
ただし、このPELLIX QLは持病のプリズム劣化もあるので完璧な状態でないことは差し引いて考える必要があります。
それから、ペリクルミラーのフィルムがあることによる画質の劣化ですが、たしかにちょっと作例にフレアっぽさはありました。ただレンズもベストな状態ではないのと、ご覧の通りペリクルミラー自体にキズやクモリがあるので、こればかりは仕方ないですね。
あくまで劣化してのことなので、新品なら悪影響はなかったと思います。
このペリクルミラーですが、なにか交換する方法はないんでしょうかね。
たとえばEOS RTの完全ダメなジャンクがあったら移植できたりしないかな……と思ってます。
アイピースシャッター
さて、普通の一眼レフなら撮影時にはミラーがファインダー光路を塞ぐのでファインダーからの逆入光がフィルム面にカブる心配はないのですが、このPELLIXは、たとえば三脚に据えてセルフタイマー撮影するときなど、ファインダーからの光がペリクルミラーを通ってフィルム面に届いてしまう可能性があります。
そこで、巻き戻しクランクと同軸にアイピースシャッターが設けられています。
このように、ダイヤルを回すとシャッターがスライドして出てきます。
これは分解したときの写真ですが、プリズムの後ろにある黒い板がアイピースシャッターですね。
金属幕のフォーカルプレーンシャッター
続いてはカタログスペックなのですが、シャッターは横走りの金属幕によるフォーカルプレーンシャッターです。
金属の薄幕を使ったシャッターといえばCanonのライカマウントの連動距離計カメラでも使われていますが、このPELLIXもペリクルミラーの影響で太陽光で幕を焼く可能性があるので金属幕を採用したのでしょうね。
シャッター幕自体ですが、Canon 7やCanon Pでは幕にヨレが生じているものが多いですが、わたしのPELLIX QLにはヨレはないです。ほかのジャンクのPELLIXを見た印象としてもヨレていた記憶はないので、改良されていたのかもしれません。
シャッターの露光時間はBと1秒から1/1000秒。
ここは標準的なスペックですね。
巻き上げ・巻き戻し・装填
巻き上げはレバー巻き上げで分割巻き上げができます。
巻き戻しはクランクです。
フィルム装填はこの時代のCanon製カメラ特有のクイックローディングになっていますが、個人的にはこれはあまり好きではないです。
装填時にフィルムがちゃんと巻き上げ軸やスプロケットと噛み合っているかわかりにくいのが理由の一つ。
あと、ジャンクをいじるのが好きな人としては裏蓋内部の掃除がとてもやりにくいんですよね。
連動距離計機っぽさのあるTTL測光
続いて露出計。
このPELLIXは地味にCanonではじめてのTTL測光の一眼レフです。
方式自体は絞り込み測光です。
操作ですが、セルフタイマー兼用の右手側レバーを内側に押し込むと絞りが絞り込まれて、露出計スイッチがONになります。
このときユニークなのが、ペリクルミラーの奥でCdS受光素子がひょっこりと起き上がることです。
たしかにこれはTTL測光にほかならないわけですが、なんというかミラーが動かないカメラならではの、連動距離計機っぽさのある測光方式です。
『クラシックカメラ専科No.31 キヤノンハンドブック』に収録された「座談会 キヤノンカメラの歩み 技術者たちの回顧」にも、Canon 8型にはPELLIXのような露出計を組み込む構想があったとわずかに触れられている[4]「座談会 キヤノンカメラの歩み 技術者たちの回顧」『クラシックカメラ専科No.31 キヤノンハンドブック』1994年、朝日ソノラマ、p.137ので、もしかすると一眼レフと連動距離計機で共用することが想定されていたのかもしれないですね。これはあくまで想像でしかないですが。
このような方式なので、測光範囲は平均や中央重点ではなく部分測光となっています。
中央の12%部分を測光[5]「ペリックス – キヤノンカメラミュージアム」2022年10月11日閲覧
https://global.canon/ja/c-museum/product/film56.html、ということになっていますね。
CanonカメラミュージアムによるとQLではないPELLIXではフィルム感度はASA10~800までとなっていますが[6]「ペリックス – キヤノンカメラミュージアム」2022年10月11日閲覧
https://global.canon/ja/c-museum/product/film56.html、PELLIX QLでは時代を反映して、ASA25~2000と高感度側に振られています[7]「ペリックスQL – キヤノンカメラミュージアム」2022年10月12日閲覧
https://global.canon/ja/c-museum/product/film63.html。
ラックアンドピニオンで連動
この露出計の機構なのですが、このように、ファインダー右手側のシャッターダイヤルと左手側のメーターとはラックアンドピニオンで連動しています。
これ、Canon FTbあたりを分解したことがある人ならわかると思うのですが、他のCanon製一眼レフもほぼ同じ機構が用いられているんですよね。
こうして見ると、Canonの一眼レフって早い時期からとても完成度が高かったのだな、ということがわかります。
あと、このラックアンドピニオンの機構自体も優れていると感じます。
よくある糸による連動方式に比べて整備性が非常によいです。
電源とバッテリーチェック
露出計の電源はMR9水銀電池です。
巻き戻しクランクの周囲のダイヤルとアイピースシャッターと反対に回すと、露出計指針でバッテリーチェックが可能です。
バッテリーチェックの操作をすると、露出計指針が上に跳ね上がります。
ファインダーとプリズム腐食
露出計そのものは定点合致式です。
ファインダー表示はとてもシンプルで、露出計の丸い定点が右側にあるだけ。
ピント合わせについては、中央がマイクロプリズムになっています。
さっきも触れましたが、ファインダーのプリズムは腐食してます。
これはPELLIXの弱点ですね。
ジャンクはかなりの確率でプリズムがダメになっています。
この分解画像を見るとわかるのですが、プリズム押さえのモルトの左右が直接プリズムに触れていて、そこだけ腐食しちゃうんですよね。
FL 50mm F1.4 I型
今回装着しているレンズはFL 50mm F1.4のI型です。
クラシックカメラ専科によれば5群6枚ということ[8]『クラシックカメラ専科 No.31 キヤノンハンドブック』1994年、朝日ソノラマ、p.118。
状態は一部コーティング劣化があります。
作例
では、PELLIX QLとFL 50mm F1.4の作例を見ていきましょう。
使用フィルムはKodak ColorPlus 200です。
はい。
この動画のアップロードは秋なのですが、季節外れの桜の季節の写真です。
撮影は2022年の春です。
レンズとペリクルミラーの劣化もあってちょっとフレアっぽい写真ではあるのですが、それが逆によい方向に作用しているんですよね。
もちろんベストな状態のペリクルミラーでも撮影してみたいですが、これはこれでいいな、という感じです。
逆光だったり強い光源がなければ、このようにけっこういい感じになったりします。
さて、このフィルムで撮った日は、祖母の家にでかけたんですよね。
新型コロナウイルスもあって2年くらい会ってなかったので、本当に久しぶりでした。
祖母は縫い物が好きで、これは祖母が50年以上使い続けているミシンです。
で、この写真は祖母の手元です。
自分がちょっとした縫い物が必要になったときに、祖母が縫ってくれるということで行ってきたんですよね。
この写真を撮った時期というのはわたしが活動をやめていた時期ですが、ちょっと写真がしんどくなってしまったのは、写真を撮る目的が動画のための作例だけになっていたのが理由だと思ったんです。
それじゃあ、人を撮ってみようかな、と思って祖母を撮ってみたのでした。
この動画には出しませんが、祖母の顔が写っているものもあります。
ということでCanon PELLIXとFL 50mm F1.4の作例でした。
だまされたと思って一度触ってみてほしい名機
今回Canon PELLIXについていろいろと話してきたわけですが、このカメラ、わたしは非常に好きです。
Canonの一眼レフはほかにFDマウントのものをいくつか持っているのですが、そっちは動画を作り終えたら友達にあげることが決まってるんですよね。
でもこのPELLIXは手元に残していくと思います。
ジャンク箱に入りがちなPELLIXがまさかこんなにいいカメラだと思わなくて、分解したときもファインダー清掃までしかしていないのでシャッター周りは未整備なのですが、このカメラ、きちんと整備して使うだけの価値が絶対あります。
名機という言葉はあまり使わないようにしていますが、1960年代のCanonを代表する名機、隠れた名機と形容しても問題ないのでは。
ほんとうに、騙されたと思って使ってみて欲しい。
Canon PELLIXはそんなカメラです。
ありがとうございました。
御部スクラでした。
脚注
↑1 | 『クラシックカメラ専科 No.31 キヤノンハンドブック』1994年、朝日ソノラマ、pp.61-62 |
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↑2, ↑5, ↑6 | 「ペリックス – キヤノンカメラミュージアム」2022年10月11日閲覧 https://global.canon/ja/c-museum/product/film56.html |
↑3 | 「TTL測光のキヤノンペリックス」『クラシックカメラ専科 No.31 キヤノンハンドブック』1994年、朝日ソノラマ、p.39 |
↑4 | 「座談会 キヤノンカメラの歩み 技術者たちの回顧」『クラシックカメラ専科No.31 キヤノンハンドブック』1994年、朝日ソノラマ、p.137 |
↑7 | 「ペリックスQL – キヤノンカメラミュージアム」2022年10月12日閲覧 https://global.canon/ja/c-museum/product/film63.html |
↑8 | 『クラシックカメラ専科 No.31 キヤノンハンドブック』1994年、朝日ソノラマ、p.118 |