最近、中国のミリタリー関連に興味を持ったので、そのなかで、この古い本を読んだ。
香川孝志 前田光繁 『八路軍の日本兵たち』、1984年にサイマル出版会から刊行された書籍である。
香川孝志 前田光繁 『八路軍の日本兵たち』
日中戦争中、捕虜となったのち、中国共産党が根拠地としていた陝西省の延安にあった日本労農学校で過ごした日本人の活動について当事者が語った一冊。
前半は香川孝志氏(梅田照文)、後半は前田光繁氏(杉本一夫)が執筆した内容となっている。
香川孝志氏(梅田照文)についてはネット上に新しめの記事はない。
前田光繁氏は現地では杉本一夫という偽名を使い、(もし情報が古くなければだが)存命のようだ。
(ただし2024年現在107歳ということになる)
八路軍に参加した最初の日本人として中国で有名らしい。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%89%8D%E7%94%B0%E5%85%89%E7%B9%81
分量としては香川孝志氏のパートの方が多い。
なぜいまどきこんな本を読もうと思ったかといえば、中国ミリタリーに興味を持ったときに、当然中国人からツッコミを受ける可能性があるので、そのアリバイとしてという意味合いがあったのは否めない。
内容自体は、プロパガンダであることを意識して読む分には興味深かった。
当然ながら、中国共産党の重鎮たちと直接接した人たちの書いたものなので、政治的どころではないくらい政治的な内容である。
しかし、延安での暮らしの描写自体は、ある程度信用して読んでもいいのではないかと思った。
目を引いたのは、岡野進という名で延安に滞在していた野坂参三についての記述だった。
本書が刊行された8年後の1992年、かつて同志を密告したことをすっぱ抜かれて日本共産党を除名されたことを読者は知っている。
敗戦後、著者のひとり香川孝志氏は野坂参三とモスクワに立ち寄ったあと帰国するのだが、ソ連を訪問したくだり(詳しくは書かれていないが)に野坂参三への複雑な感情を読み取ることができ興味深かった。
敗戦後の東北部とソ連での経験について著者が言葉少なになったことにこそ、そこでなにかを見たことが現れているのだろう。
プロパガンダにほかならないのは確かで、疑って読まなければならないのは確かだが、さらに後年に書かれた通俗書に比べれば相当マシな一冊だと思う。
本書と合わせて読みたい文章
本書はあくまでも1984年という時代に、しかも著者の主観により書かれた書籍である。
本書の中の固有名詞で検索したところ、以下の論文がヒットした。
趙新利 『日中戦争期における中国共産党の敵軍工作訓練隊: 八路軍に対する日本語教育の開始とその特質』早稲田政治公法研究 第94号、2010年
https://waseda.repo.nii.ac.jp/record/6965/files/SeijiKohoKenkyu_094_Zhao.pdf
たとえば本書のなかに出てくる森健という人は本名が吉積清ということなどが指摘されている。