Aires 35 IIIC 写りがいい!けどもったいない部分も多いカメラ

Aires 35 IIIC 写りがいい!けどもったいない部分も多いカメラ

みなさんこんにちは。
フィルムカメラ系VTuberの御部スクラです。

今回は日本のAires(アイレス写真機製作所)のフィルムカメラ。
Aires35 IIIC(アイレス35IIIC)について話します。

見た目がライカM3に似ているということで有名な機種ですね。

Aires 35 IIIC

Aires 35 IIICの外観とスペック

Aires 35 IIIC

Aires 35 IIIC

Aires 35 IIIC

Aires 35 IIIC

※本記事で取り上げているのはF1.9レンズ付

レンズ:P CORAL 4.5cm F2.4(4群5枚)、H CORAL 4.5cm F1.9(4群6枚)
シャッター:SEIKOSHA-MXL B、1秒~1/500秒
巻き上げ:レバーによる1回巻き上げ、分割不可
カウンター:順算式、自動復元
フォーカシング:連動距離計を内蔵
ファインダー:採光式ブライトフレーム、パララックス自動補正
フィルム装填:底蓋を外した後、裏蓋が蝶番により開閉
使用フィルム:35mmフィルム
発売年:1957年(F2.4)、1958年(F1.9)
発売時価格:21,500円(F2.4)、24,500円→21,500円(F1.9)
製造元:アイレス写真機製作所

参考文献:『クラシックカメラ専科No.22 アイレスのすべて』1992年、朝日ソノラマ、p.16

アイレス35 IIICについて

アイレス35 IIIC

アイレス35IIICにはコーラル4.5cm F2.4付とコーラル4.5cm F1.9付があるのですが、このアイレス35IIICはF1.9付のほうです。

発売年と価格ですが、『クラシックカメラ専科No.22 アイレスのすべて』p.16(上掲)によると、
F2.4付は1957年9月発売で21,500円。
F1.9付は1958年3月発売で24,500円、のちに21,500円に値下げされたということです。

底蓋がかなり錆びていたり、全体的に傷だらけだったりするのが画面でもわかると思うのですが、例のごとく、状態が非常に悪い分解品を1000円くらいのジャンクで買ったものです。

底蓋がかなり錆びていたり、全体的に傷だらけだったりする

一箇所オリジナルではない箇所として、ブライトフレームの採光窓は半透明のプラスチックで代用しています。

このカメラ、バラしてみていろいろと思うところがあったのであとで話していきますね。

スペックと特徴

それではこのカメラの特徴を見ていきます。

アイレスの35mmレンズシャッターカメラのなかではもっとも有名だと思われる機種です。

機能的にはレバー巻き上げ、クランク巻き戻しで大口径レンズがついたレンズシャッターカメラなのですが、1957年、1958年という競争が激しい時期にあって、カタログスペックはレンズシャッター機としてはトップクラスだったといえるのではないでしょうか。

レンズ

まずレンズですが、H CORAL 4.5cm F1.9(4群6枚)がついています。

H CORAL 4.5cm F1.9(4群6枚)

残念ながら今回買ったものはそれなりに拭き傷がある状態です。

良質なファインダー

ファインダーにはパララックス補正つきの採光式ブライトフレームがついています。

パララックス補正つきの採光式ブライトフレーム

こちらもかなり質が良いです。
ファインダーの二重像は合わせやすいし、距離計自体も非常にしっかりとしたつくりをしています。
アイレスは日本のカメラメーカーとして真っ先に採光式ブライトフレームを採用しただけあって、さすがの品質です。
きちんと、あとで調整することも考慮されています。

あとで調整することも考慮

ただ、ブライトフレームを動かすのに糸が使われていて、ここだけはちょっと心もとないつくりをしていますね。

※ファインダー内を撮影するときに気がついたこのカメラの難点:三脚に取り付けるとピントノブと雲台が干渉してピントを合わせられない

シャッター

セイコーシャMXL Bと1秒~1/500秒

シャッターはセイコーシャMXLで、Bと1秒~1/500秒。
ここについても当時の日本製カメラとしては上質なシャッターが使われています。
『クラシックカメラ専科』によれば、このシャッターにセルフタイマーがないのを逆手に取って、レンズの横にライカM3風のセルフタイマーレバーを置いた、ということです。

セルフタイマーレバー

巻き上げ

巻き上げはレバーの1回巻き上げです。
分割巻き上げはできません。

レバーの1回巻き上げ

巻き上げですが、ゴリゴリするようなことはないのですが、非常に重いです。
それから、巻き上げレバー本体は金属のプレスでできていて、裏側から見るとこのように空っぽです。

巻き上げレバーの裏側が空洞

巻き戻しは非常に凝っている

次に巻き戻し。
ここはとても凝っています。
巻き戻し自体はクランクで行なうのですが、巻き戻すとき以外はこのように収納された状態になっていて、フィルムの巻き上げに連動して回ることもありません。

巻き戻しクランクはトップカバーに埋め込まれている

じつは中央の軸がクラッチになっていて、巻き戻すときだけパトローネとクランクがつながるようになっているんです。
これだとフィルムが正常に巻き上がっているかを確認することができないので、そのかわりにクランクの横で赤い十字の指標が回転して、フィルムが送られていることを知らせてくれるようになっています。

赤い十字の指標

巻き戻しの切り替えは前面のレバーを左に倒して行います。

巻き戻し切り替えレバー

多重露光機能

巻き戻しレバーを反対に倒すと多重露光ができます。

多重露光機能

レバーを倒すとスプロケットが回らなくなります。
多重露光レバーはシャッターがチャージされたときに自動で中央に復帰します。

裏蓋の開け方も凝っている

前後しますがこのカメラ、裏蓋の開け方も凝っています。
裏蓋を開けるには、まずライカのように底蓋を外します。

底蓋を外す

そして、下部にある開閉スイッチを押すとこうやって開くんです。

裏蓋が開く

よくやるなぁ、という感じです。

内部を見ると、フィルムの開口部はそれなりに内面反射対策が意識されていますし、ダイキャストはしっかりしています。
そう、このカメラ、手に持つとずっしりと重くて驚きます。

凝っているがもったいない部分が多いカメラ

と、このように全体的に非常に凝った機構を持っているカメラです。
写りもいいです。

なのですが、実際に分解して、撮影に使ってみた感想というのが、いろいろともったいない部分が多くて残念だなぁ、ということだったんです。

凝っている箇所とそうではない箇所の落差が激しい

どういうことかというと、凝っている場所は非常に凝っているけど、全体的なつくりはそれほど良くないんですよね。
巻き上げレバーの裏側が空っぽなこととかもそうですが、力を入れている場所と、そうではない場所の落差が激しいんです。

外側から見ると凝っているように見える巻き戻し周りも、トップカバーを外すとこのように空洞で、しかも上部はトップカバーで直接回転を支持する構造です。

巻き戻し部分の内部

あと、この写真に写っていますがストラップ金具もカシメで、ちょっとストラップを付けて実用するのは怖いです。

素材やグリスがよくない

使われている金属とかネジの素材も、一見してあまりよくないとわかる感じです。

あと、今回このカメラがジャンクで非常に安かった理由のひとつが、ヘリコイドが固着していたことだったんですよね。

固着していたヘリコイド

ここも、もう少しよいグリスを使ってもよかったんじゃないかと感じます。
ただ、今回素人分解でヘリコイドを抜いてしまったのでピントが出せるか戦々恐々としていたのですが、(正しい方法でできたかは不明ですが)一応ピントが調整できる構造になっていたので、このあたりはちゃんとしてるな、と思いました。

あと一歩が本当に惜しいカメラ

このカメラ、レンズと距離計とスタイリングは非常によいです。
ライカM3の模倣品というにはそこまで似ていないので、この見た目は普通に好ましく思います。
あと社外品のパーツですがシャッターもよいです。
ですが、ほかは非常に安普請な箇所が目立ちます。
巻き上げが重いこととかもそうですが、一度中身を見てしまうと使うのが怖くなってしまう感じがあります。

あと一歩が惜しい

せっかくいい部分も多いのだから、もう少し頑張ったら一流のカメラになることができたのにと思うのですが、そのあたりがアイレスというメーカーの「中堅」という立ち位置の難しさだったのでしょうね。

素人分解しないほうがいい

あと、いつも分解ばかりしてるわたしが言うのもなんですが、このカメラ、素人が分解しないほうがいいです。
素材の悪さとか構造の癖の強さとか、ある程度わかっている人なら簡単なのでしょうが、わたしのように生半可な知識と経験しかない人だと一気にドツボにはまります。
アイレスの素人分解、正直いってこりごりです。

アイレスについての同人誌を書かれている佐倉かゑでさんが、アイレス35Vの同人誌を作るにあたってカメラのロッコーさんに整備を依頼したとTwitterに書かれていたのですが、さすが、わかっている人は違う、と感じました。

(このカメラに限ったことではないですが)技術のある方にきちんと整備してもらってから使いたいカメラだと感じました。

佐倉かゑでさんの同人誌情報

アイレス35 IIICで撮影した写真

……さて、というような感じで、中身を見れば見るほど「これはダメなんじゃないか……」という気持ちになっていたので、撮影に持ち出したときは全然期待していなかったのですが……
このカメラ!
写りがすごくいいんですよ!

撮影した写真はこんな感じです。
使用フィルムはKodak GOLD 200です。

写りはとてもよい!!

はい。

すでに陽が落ちかけている時間帯の撮影だったので日陰でのカットが多いのですが、もう全然、普通に写ってくれます。
この写真は、アイレスフレックスYIII型のときも撮影した、高田馬場駅の近く、アイレスの工場があった場所です。

高田馬場駅近く アイレス移転前の工場所在地

※ただし、アイレス35IIICは移転後の製品なのでここでは作られていません。

こちらは、最初の写真に写っているビルの裏側。

アイレス移転前の所在地裏手

神田川が流れています。
今回、43mmのフードが見当たらなかったのでフードを付けないで撮影したのですが、多少空が画面に入っていても全然見られる写真になっていますよね。

次は高田馬場の駅前の写真。

高田馬場駅前

わたしのチャンネルでは肖像権で揉めたくないので基本的には人が写り込まないようにしているのですが、遠景で判別できないのと、ナンバープレートが写っている自動車もタクシーだけなので映します。
もう、普通によく写るカメラって感じですよね。
45mm F1.9というのは発売時期的には攻めたスペックだと思いますが、ちょっと絞っているとはいえレベルの高さを感じます。

こちらも絞ってはいますが、太陽が完全に画面内に入っていてもこの程度で済んでいるのはとても立派だと思います。

太陽が入っているカット

時間的にギリギリだったのですが、日向で撮影することができた写真です。

日向での撮影

もう文句なし、キリッと写っていますね。
このあと新大久保で撮影しようとしたのですが、さすがに日陰ばかりで露出が厳しかったので移動しました。

新大久保は日陰になるのが早い

移動した先、以前動画にした淀橋という橋の近くで撮ったのがこの写真。

淀橋の近く

淀橋の近く

こちらもとても良い感じです。

さきほども触れましたが、レンズには普通に拭き傷があるし、もともとカビも生えていたのでけっして状態はよくありません。
なのにこんなに写ってくれる。
本当に驚きました。

佐倉かゑでさんのツイートでアイレスのコーラルというレンズは描写がよいということを聞き及んではいましたが、Hコーラル4.5cm F1.9というレンズ、ほんとうによく写ってくれます。

最後に、もうほとんど太陽が落ちている時間に絞り開放で撮った写真。

アイレス移転後の所在地

新宿区歌舞伎町、昔の地名は西大久保。このアイレス35IIICが作られた工場のあったところです。
シャッター速度も1/50秒なのですがなんとかちゃんと写ってくれました。
このように拡大しても全然気になるところはなく、コーラルレンズのレベルの高さがわかります。

ということで作例でした。

アイレスの関連書籍

クラシックカメラ専科 No.22とNo.23

No.22がアイレス特集なのですが、続くNo.23(トプコンレンズシャッター一眼レフ)の巻末にも谷村吉彦 『アイレスカメラ補遺』と前号訂正が掲載されておりとても重要です。
あわせて読むことをおすすめします。

萩谷 剛『ズノーカメラ誕生 戦後国産カメラ10物語』 (クラシックカメラ選書)

アイレスについても章が設けられています。

まとめ

ということでアイレス35 IIICのお話でした。

このカメラ、ほんとうにもったいないです。

写りがいい。
ファインダーの見えもいい。
見た目も、ライカM3の影響下にあるとはいえいろいろと凝っている。
なのに、素材とか設計とかの落差が非常に激しいんですよね……。

これはアイレスというメーカーの立ち位置から来る限界だったのでしょうが、逆にいえば、制限された条件の中でお金をかけられるところにはふんだんにお金をかけた結果ともいうことができると思います。

とにかく、とてもよく写るので、もし使いたい方は「ちゃんと信用のおける」(強調)ところで整備されたものを購入するといいと思います。

昔から存在は知っているカメラでしたが、初めてちゃんと触ることができてよかったです。
ありがとうございました。
御部スクラでした。