安田峰俊『エンド・オブ・スカーレット』を紙本で購入し、読んだという話。
中国に興味がある日本人の間で非常に有名なライター、ジャーナリストの安田峰俊氏の最初の小説。
氏のTwitterによれば、最初は漫画原作として書き始められたもので、漫画の話がなくなったために「なろう」「カクヨム」に投稿したものをもとに、大幅な改稿を行ったものとのこと。
氏のTwitterはたまに見ているのだが、たしかに小説を投稿したと書いていた気がする。
自分は「なろう」を読む習慣がないので、無意識に完全にスルーしてしまっていた。
このように紙本で出版されたことで、自分のような、ウェブ小説を読まない保守的な層にまでリーチすることができたということだろう。
あらすじ&どんな本か
中国のインターネットで触れることが難しい「あの出来事」の頃に両親を殺され日本に移住した超能力を持つ主人公が、自分を監視している駐日中国大使館のエリートの女の子と相思相愛になり、彼女を救おうとする話。
(自分はbilibiliに動画を投稿している日本人なので、自然と「あの出来事」のように自己検閲を走らせるようになってしまった)
平たく言ってしまえば「ポルノ」である。
これは悪い意味ではなく、褒め言葉として、正しく「ポルノ」である。
リアル書店でこの本の在庫を尋ねたところ、ライトノベルの扱いをされていたのだが、そもそも漫画原作であり「なろう小説」なのだから、その扱いは正しかった。
まさに、中国に深く興味を持つ日本人男性の夢・妄想を具現化した小説である。
日本人で中国に興味を持ったものなら、エリートの育ちの良い中国人の異性とお近づきになる夢を持ったことがあるに違いない。
マジョリティの日本人には信じられないかもしれないが、そう思ったことがある日本人は少なくないはずだ。
(本当にそうだと思う)
少し前にTwitterで、抗日ドラマに出てくる日本軍の女性将校へのM願望を語る中国人がバズったことがあったが、それと似たようなものである。
ということで、本書はそういう下世話な妄想を完全に具現化している。
本書の主人公は超能力者であり、そもそも日本人の血筋を引いてはいないので、読者の日本人がその立場になることは絶対にできないのだが、それでも「なろう」的な欲求を満たしてくれる。
ライターでありジャーナリストであり、読者の求めることを求める文体で提供することに長けた著者の面目躍如にほかならない。
金三角地帯や園区など、ディテールは著者のこれまでの仕事を下敷きにしているので、安田氏の過去の著作を読んでいるとさらに楽しめる。
エンターテイメントとして素晴らしい。
不満点
メインヒロインとの話が本筋として読みたかった側としては、台湾のチアガール、ヤーヤー(名前)は明らかに余計だった。
Twitterへの投稿によれば、ヤーヤーはWeb連載版には登場しない、紙本版での新キャラクターらしい。
ライトノベルのように続刊が出るのなら複数ヒロインの一人としてキャラを立てることもできるのだろうが、本書の結末だとそうはならないだろう。
基本的には浮気要素やメインヒロインがやきもきする要素はそこまでなかったので、純愛一筋でよかったのではないか。
まとめ
買う前は王力雄『セレモニー』のような内容を想像していたのだが、思った以上にエンターテイメントだった。
かつて『ゼロの使い魔』のSSを書いていた人間として、久々にエンターテイメントに振り切った小説を読む体験をすることができた。
中国好きの日本人の「妄想」に良い意味で応える作品として、良質な体験を与えてくれる一冊だった。
