みなさんこんにちは。
フィルムカメラ系VTuberの御部スクラです。
今回は、ニコンのオートフォーカス一眼レフカメラ、F70Dについて話します。
Nikon F70(F70D)
Nikon F70(F70D) 外観とスペック
レンズマウント:Nikon Fマウント
シャッター:縦走りフォーカルプレーンシャッター B、30秒~1/4000秒、シンクロ速度1/125秒
巻き上げ:自動 3.7コマ毎秒(高速時)
露出計:3D-8分割マルチパターン測光
カウンター:液晶に表示
フォーカシング:TTL位相差検出方式
電源:CR123 x2個
使用フィルム:35mmフィルム
発売年:1994年
発売時価格:95,000円
製造元:ニコン
参考文献:
「Nikon F70D PANORAMA AF 使用説明書」(pdf)(2021年12月10日閲覧)
サンダー平山&中古カメラ調査団 『中古カメラ実用機買い方ガイド』1996年、学習研究社、p.92(価格について)
Nikon F70(F70D)について
ソースがWikipediaなのですが、F70Dは1994年発売。
パノラマのないF70と、疑似パノラマのついたF70Dという2種類があります。
F70Dの発売時価格は95,000円とのことです。
参考文献:
「ニコンの銀塩一眼レフカメラ製品一覧 – Wikipedia」(2021年12月10日閲覧)
さて、70という数字からもわかるように、このカメラは、1990年代前半におけるF二桁機のF90・F70・F50というラインナップの中では中ぐらいのグレードの製品でした。
なのですが、このカメラ、よくよく見るととても特徴的な操作性をもっているのですよね。
では、詳しく特徴を見ていきましょう。
スペック
まずはニコン公式サイトにある取扱説明書pdfをもとに、性能面をみていきます。
すでにオートフォーカス一眼レフがこなれている時代の製品だけあって、カタログスペックを見るとかなり充実していることがわかります。
シャッターは当然のように1/4000秒が切れますし、モードもP・S・A・Mのいわゆるフルモードを搭載しています。
連写速度は最高で3.7コマ毎秒です。
今回、新しいレンズがあるわけではないので実際の撮影はしていないのですが、AFも普通に実用的な動きをしていると感じます。
(動画ではAF動作時のファインダー内の様子がわかります)
このカメラがターゲットにしていたであろうファミリーユースで、例えば旅行とか運動会とかの撮影をする分には不足はなかったのではないでしょうか。
ファインダーはすごく見やすいです。
以前取り上げたNikon Uの狭くて遠いファインダーとは大違いです。
さすが、比較的下位のモデルでもペンタプリズムが使われている時代だけありますね。
説明書によると、露出計も3D-8分割マルチパターン測光とのことです。
わたしは古いカメラばかり触ってきた人間なので、マルチパターン測光というのはどれも単に「すごい測光方式」という認識しかできないのですが、3Dとついているのですごいのだということはわかります。
スピードライトが内蔵されているのも、もはや当然のような感じです。
スローシンクロや後幕シンクロも普通にこなしてくれます。
電源はCR123リチウム電池を2本使います。
とまあ、わかりやすい部分だけ見ても、1990年代の中級一眼レフとして足りない部分のない、さすがはニコンといえるカメラだということがわかるのでした。
さらに詳しくは、ニコン公式サイトに説明書のpdfがあるのでそちらもご覧ください。
独特の操作性
なのですが、このF70Dという機種が独特なのは、カタログスペックに表れない部分なのでした。
なにかというと、操作性です。
いつもお世話になっている佐藤茂夫さんの同人誌、『佐藤評論6 AF一眼レフ操作系史』では1990年代のニコンの操作系に一章を割いています。
参考文献:佐藤成夫 『佐藤評論6 AF一眼レフ操作系史』サークル 新日本現代光画、2018年(コミックマーケット95)
というのが、1990年代前半のニコン製一眼レフは、操作系に統一性が一切なく、F4とF90とF70とF50では使い方がまったく異なっていたのでした。
しかも、とくにF70とF50は非常に独特な操作方法を持っていたのでした。
右肩の扇形の液晶を見ながらの操作
では具体的に見ていきましょう。
F70の操作は、右肩の液晶を見ながら、
左肩のFUNCTIONボタンとSETボタン、右手親指のコマンドダイヤルで行います。
操作例
具体的にどうやって行なうかというと……
1:単写→連写
たとえば、シャッターを単写から連写に切り替えてみましょう。
まず、FUNCTIONボタンを押しながらコマンドダイヤルを回します。
すると扇形の液晶の中を三角形の矢印が動きます。
この矢印を「S」の部分で止めます。
そうしたら、SETボタンを押しながらコマンドダイヤルを回します。
すると表示が連写に切り替わります。
これで単写から連写への切り替えが完了しました。
2:後幕シンクロの設定
次に、スピードライトを後幕シンクロにしてみましょう。
同じ用に、FUNCTIONを押しながら三角矢印を稲妻マークに合わせて、
SETを押しながらREAR(後幕シンクロ)の表示に合わせます。
これで後幕シンクロになりました。
と、こういう細かい機能のセットだけなら違和感がないと思います。
ところが……
3:プログラムAE→絞り優先AEに切り替え
今度は、撮影モードをプログラムから絞り優先に切り替えます。
もちろん方法は同じです。
FUNCTIONを押しながらコマンドダイヤルで三角矢印をPの場所に合わせて、
SETを押しながらコマンドダイヤルを回してAに合わせる。
これで絞り優先になりました。
4:露出補正
では露出補正をするにはどうするかというと、
当然、FUNCTIONを押しながらプラスマイナスのマークまで回して、
SETを押しながらコマンドダイヤルで露出補正の段数をセットします。
そう、このF70の操作はほぼすべてこの方法で行うのです。
操作の優先度が無視されている
『佐藤評論6』のpp.42-43で指摘されていることなのですが、このF70(F70D)の操作系の最大の問題点というのは、さまざまな操作の優先度が無視されて、全部がフラットになっていることなんですね。
カメラの操作に慣れている人だったら、プログラムや絞り優先といった撮影モードの変更、露出補正などの操作は優先度が高いのでワンタッチで行えて欲しいと感じると思います。
いっぽう、それに比べるとストロボの後幕シンクロやスローシンクロの切り替え、測光方式の切り替えやオートブラケットというのは優先度が下がると思います。
ほかにも、デジタルカメラだと重要な操作なのですが、フィルムカメラだと撮影中にフィルム感度の設定を切り替えるということはほとんどないでしょう。
ようするに、カメラという機械の操作のセオリーを無視していることがこのF70(F70D)の問題点だったのです。
『佐藤評論6』ではそのあたりのことについて詳しく考察しています。
ご興味がある方は以下からぜひご購入ください。
『佐藤評論6』の購入はこちら
『佐藤評論6』(pdf版) 商品ページ
https://booth.pm/ja/items/1732351
当時のユーザーにとってはどうだったのか?(想像)
とまあ、カメラが好きなマニア視点だと酷評されがちなF70の操作系なのですが、当時買った人が困ったかというと、実際は困らなかった可能性が高いと思うんですよね。
正直、撮影モードをプログラム以外にしたり、それどころか露出補正を掛けるのでさえ、マニアじゃなければ行わないことです。
旅行とかスポーツ、友達や家族を撮るためにカメラを買った人は、プログラムAEから設定を変えることはなかったと思うんですよ。
ソースは、フィルム一眼レフが現役の道具として使われていた最後の時代をギリギリ知っているわたしの実体験です。
1990年代、2000年代。
カメラというのは押したら写る、それ以外に特別な操作をする必要はないという認識が、写真やカメラの愛好家以外の間ではすでに一般的だったと思います。
そう考えたとき、このフラットな操作系ははたして悪いものだったのでしょうか?
「押すだけ」のプログラムAE以外の露出モードとか、露出補正という行為についてまったくなにも知らない初心者が、そういう機能があるんだということを知ったとき。
むしろ、これくらいフラットな操作系を持っていたほうが、逆にとっつきやすかったんじゃないかと思うんですよ。
なまじ先入観がない分、露出モードも、露出補正も、連写も、スピードライトの動作も、全部が等しく初めて知る機能であるわけです。
となったとき、このフラットな操作系というのは「カメラにはこういう機能があるんだ」という教科書というか、カタログというか、そういうものとして働いてくれた可能性があります。
もちろん、実際にそういうことがあったかどうかはわからないのですが……。
そもそも、当時すでにカメラや写真に興味があったマニアはこのカメラを買わなかったと思います。
普通にF90を買ったんじゃないでしょうか。
となったとき、カメラに思い入れがない人に多くの機能を提供する方法として、けっしてこの操作系は劣ったものじゃなかった可能性があると思うのですよね。
登録機能
最後に、マニア向けのこの操作系からの抜け道である登録機能について簡単に触れます。
じつはこのF70、各機能の設定を一括で呼び出せる登録機能があります。
登録方法
使い方ですが、登録したい状態になったら、FUNCTIONボタンの上の「IN」ボタンを押しながらコマンドダイヤルを回します。
すると液晶のQRと書かれた黄色い部分に1から3の数字が表示されます。
1から3のどれかの数字でボタンを離すと登録完了です。
呼び出し方法
呼び出すには、INボタンの横のOUTボタンを押しながらコマンドダイヤルを回して、
同じく1から3の数字を呼び出します。
ボタンを離すと呼び出し完了、選択されます。
この登録機能、ちょうど3つあるので露出モードを絞り優先・シャッター優先・マニュアルに設定することで、デフォルトのプログラムと合わせてとりあえず一般的なカメラのような使い方にすることが可能です。
これは当時の『写真工業』誌でニコンの開発者が紹介していた使用方法らしいのですが、『佐藤評論6』では「裏技的な活用方法にどれだけのユーザーがノーヒントでたどり着けたのだろうか」とばっさり一刀両断されています。
(わたしも、典型的なバッドノウハウだと思います)
露出補正についても、カーソルの位置は電源を切っても保持されるので、カーソルを他に動かさない限りはFUNCTIONを押す→SETを押しながらコマンドダイヤルを回すだけで可能です。
(ただし後述しますが、この操作方法にも大きな問題点があります)
まとめ1
ということでニコンF70Dのお話でした。
こういうオートフォーカス一眼レフの中では、下手をすると迷という字のほうの迷機扱いされる可能性もありそうなカメラなのですが、けっしてダメな機種じゃないと思うんですよね。
マニア視点で見てしまうから不満なだけで、当時買ったユーザーがプログラムだけで使う分には十分以上に仕事をしてくれたと思います。
それにこのカメラ、ニコンのカメラだけあって非常にがっしりしているんですよ。
同時期のキヤノンやペンタックス、ミノルタとは剛性感が違います。
そういう面でもけっして悪いカメラではないと思います。
追加で気付いた問題点
ここからは動画収録後に追加して収録したパートです。
台本の段階では好意的に評価しようとしていたのですが、動画を撮影するためにいろいろと操作していて、意見が変わってしまいました。
やはり、ちょっと操作性に問題がありすぎて厳しいカメラだったかもしれません……。
問題1:登録機能について
抜け道の登録機能についてですが、登録番号を変えるときに間違えてOUTとINを押し間違えると、即座に設定が上書きされてしまいます。
(動画収録中、気が付かず実際に1~3まですべて上書きしてしまいました)
OUTとINのどちらが登録で、どちらが呼び出しなのかということも、まったく直感的ではありません。
撮影中にいつの間にか呼び出し内容が変わっている可能性があるため、(開発者の意図とは違い)登録機能は実際には使い物にならないと言わざるを得ません。
問題2:いつの間にかセルフタイマーになる
FUNCTIONとSETボタンによる操作についても致命的な問題点があります。
それが、SETボタンにセルフタイマーへの切り替えも割り振られていることです。
設定を変えるときに間違えて、最初にFUNCTIONボタンを押さず、いきなりSETボタンを押しながらコマンドダイヤルを回してしまうと、知らないうちにセルフタイマーになってしまうのです。
(こちらも動画撮影中に気が付かないうちにそうなっていました)
これも、シャッターを切りたいと思った瞬間に切ることができないミスを招くといえます。
(このセルフタイマー問題については、サンダー平山他 『中古カメラ実用機買い方ガイド』でも触れられていました)
少し触るだけで致命的な問題点が見つかる
ちゃぶ台返しになるのですが、やっぱり、ダメなものはダメなのかもしれません……。
サンダー平山氏が 『中古カメラ実用機買い方ガイド』で似たことを書いているのですが、このカメラは「プログラムなら使える」カメラではなく、「プログラム以外では使い物にならない」カメラなのかもしれません。
Nikon F70(F70D)関連書籍
アサヒカメラニューフェース診断室―ニコンの黄金時代 (2)
アサヒカメラ ニューフェース診断室の再録。ニコンはPart1とPart2に分かれていて、こちらのPart2はF4以降を収録。
朝日新聞出版公式Webサイトの書籍情報によればF70も収載されているとのこと。
Auto Amazon Links: プロダクトが見つかりません。
サンダー平山他『中古カメラ実用機買い方ガイド』
1996年当時のカメラ好きの空気感が伝わる一冊。
Auto Amazon Links: プロダクトが見つかりません。
まとめ2
ところでニコンのF二桁機については、F50はもっとすごいですよとおすすめされました。
状態のよいF50があったら、ぜひ買って触ってみたいと思っています。
ありがとうございました。
御部スクラでした。