みなさんこんにちは。
フィルムカメラ系VTuberの御部スクラです。
今回は日本光学のフィルムカメラ、Nikomat FTNについて話します。
Contents
Nikomat FTN
Nikomat FTN 外観とスペック
レンズマウント:Nikon Fマウント
シャッター:コパルスクエアS B、1秒~1/1000秒
巻き上げ:レバー式、1回巻き上げ(分割不可)
露出計:CdS受光素子 中央重点測光
カウンター:順算式、自動復元
フォーカシング:マニュアルフォーカス
電源:MR9水銀電池 x1
使用フィルム:35mmフィルム
発売年:1967年
発売時価格:60,000円(50mm F2付)
製造元:日本光学
価格出典:『アサヒカメラ』1968年1月号掲載のニューフェース診断室記事(『カメラレビュー 最新カメラ診断室』1996年、朝日ソノラマ、p.75-81に再掲されたものより)
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Nikomat FTNとは
ニコマートFTNは1967年に発売した一眼レフカメラ。
ニコマートというのは、日本光学、現在のニコンが1960~1970年代にかけて普及機種に使っていた名称で、このチャンネルだと初期にNikomat ELを取り上げましたね。
ニコマートには機械式のNikomat FT系と、電子シャッターで絞り優先のNikomat EL系があるのですが、機械式のFT系のなかでは、このNikomat FTNがもっとも代表的な機種といえるでしょう。
簡単にNikomat FT系の機種を紹介すると、こんな感じです。
- Nikomat FT(1965):開放F値を手動設定する。平均測光。
- Nikomat FS(1965):露出計とミラーアップを省略
- Nikomat FTN(1967):いわゆる「ガチャガチャ」がついた。中央重点測光。
- Nikomat FT2(1975):ホットシューがついた
- Nikomat FT3(1977):Ai方式に対応
Nikomat FT3のあと、FT系の路線はNikon FMへ受け継がれていくことになります。
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とても頑丈なカメラ
それでは、Nikomat FTNはどんなカメラなのか、ということなのですが、
最大の特徴は、なんといってもとても頑丈だということでしょう。
Nikonのカメラというと質実剛健なイメージが強いですが、Nikomat FTNはそのなかでもとくに頑丈です。
もちろん、Nikomat FTNが新品で売られていた時代のプロ向け機種、Nikon Fが頑丈なのは当然なんですよ。
でもなんだかんだで、きちんとメンテンナスされてこなかったNikon Fは調子が悪くなります。
その点、同じくらい状態の悪いNikon FとNikomat FTNがあったら、きちんとシャッターが切れる可能性が高いのは、Nikomat FTNのほうなんじゃないか、と思うんです。
これは、Nikomat FT系がコパルスクエアSという非常に頑丈なシャッターを内蔵しているというのが大きな理由でしょう。
状態が悪いが動いた
じつは、今回映っているNikomat FTNって、これ以上ないくらいに状態が悪かったんですよね。
購入価格は300円で、トップカバーには落下させた跡があるし、Nikomatと書いてある銘板のネジはオリジナルではなかったので、過去に分解歴があったはずです。
そもそも、頑丈なはずのコパルスクエアSも後幕がきちんと閉じなかったんです。
ところが、分解して組み立て直したら、シャッターは高速から低速まできちんと開くし、その他の各部の動作もまったく問題なくなったんですよね。
これには驚きました。
精度が非常に高い
そう、驚いたのはNikomat FTNの精度のすごさです。
レンズマウントのついている前板の部分を外すと、ペンタックスSPなどではワッシャーが入っていることが多いのですが、Nikomat FTNには一枚も入っていません。
そして、わたしのカメラ分解の技術は大したことがないのですが、分解して組み立てたら、ピント精度がきちんと出ているんですよ。
このチャンネルをはじめてからいくつもカメラを分解して組み立ててきましたけど、素人分解だとピントの精度が出ないカメラとか、経年劣化でミラーの位置がズレてしまう一眼レフとかには何回も泣かされてきました。
ところが。
ニコマートFTNはこんなにボロボロで、落下痕まであるのにまったく問題なかったんです。
Nikomat FTN + Nikkor-H Auto 50mm F2で撮影した写真
どれくらいピント精度が出ているか、実際に撮った写真を見てみましょう。
使用レンズは、1960年代のニッコールの定番。
Nikkor-H Auto 50mm F2です。
陽が落ちかけている時間に、ほとんど絞り開放固定で撮影しました。
使用フィルムは富士フイルムのNEOPAN 100 ACROSS(2019年期限)をParodinal 1:50 20℃ 13.5minで現像しました。
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最短でもまったく問題なし
はい。
最短撮影距離で撮影したカットをどんどん出していきますよ。
このレンズの最短は0.6m弱なのですが、開放でもしっかりと狙った場所にピントが来ています。
ピントが合うなんて当然のことと思うかもしれません。
わたしもそう思っていました。
でも、このチャンネルを始めてから、それまで以上に多くのカメラを触ってわかったことは、ピントが合うというのは、それだけでとてもレベルが高いということなんです。
以前、Konica 1型の動画でも精度の大切さを思い知ったと話しましたが、こうしてNikomat FTNのすごさを体感すると、Nikonがカメラの世界で天下を取ったのは、取るべくして取ったのだということがよくわかりました。
このカットなんて、絞り開放、手持ちで蜘蛛の糸がしっかりと写っています。
それから、もちろん近接以外でもしっかりと写っています。
Nikkor-H Auto 50mm F2ってド定番の標準レンズですけど、やっぱりよく写るレンズはよく写るんですね。
今回、モノクロでしか撮っていないですが、本当に細部まで精密に写ってニッコールのすごさを思い知りました。
あ、あと今回、ネオパン100アクロスをパロディナールで現像しているのですが、久々にアクロスを使って、アクロスってすごいフィルムだったんだなーということも再認識しました。
フィルムカメラ、たくさん触ってきましたけど、この信頼感はすごいです。
もともとジャンクだったのに安定感がある。
ここぞというときに使えるカメラだと思いました。
スペックについて簡単に
では簡単に、スペックについても話します。
シャッターは機械式の縦走り、金属幕のフォーカルプレーンシャッターで、バルブと1秒から1/1000秒まで。
さきほども話したようにコパルスクエアSというシャッターを使っていますが、このシャッターを使ったカメラの特徴として、シャッターダイヤルがボディの上面ではなく前面に来ます。
Nikomat FT系ではこのように、レンズマウントの周りがシャッターダイヤルになっています。
巻き上げはレバー式で分割巻き上げはできません。
当時のアサヒカメラ ニューフェース診断室によると、ファインダー視野率は上下89%、左右91%。
倍率は50mmレンズで0.86倍とのことです。
露出計はMR9水銀電池。
露出計は中央重点測光です。
露出計にはいわゆる「ガチャガチャ」という仕組みが使われていて、これでレンズの開放F値をボディに伝達するようになっています。
前機種のNikomat FTでは手動設定で、ここが半自動になったのが大きな改良点だったんですね。
ちなみに、Nikomat FTNの機種名ですが、ボディの上面、シリアルナンバーの前にFT、その上にNと書かれています。
前機種のFTには、このNの字はありません。
参考文献:「ニューフェース診断室ニコマートFTN」(アサヒカメラ1968年1月号掲載記事の再録)
『カメラレビュー 最新カメラ診断室 復刻版』1996年、朝日ソノラマ、pp.75-76
Nikomat FTNの関連書籍
豊田堅二『ニコンファミリーの従姉妹たち (クラシックカメラ選書) 』
NikomatをはじめとするF一桁機に対象を絞った一冊。クラシックカメラ選書でこの内容が成立するのはさすがニコンだと感じます。
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大関通夫『やさしいカメラ修理教室 (クラシックカメラ選書)』
Nikomat FTNの修理方法に一章が割かれています。
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Nikomat FTNの使い方
それではここからは、Nikomat FTNの使い方について簡単に解説します。
電池を入れる
まず電池を入れます。
電池はMR9水銀電池です。
水銀電池は環境問題のため1990年代に製造が中止されているので、ボタン電池をアダプターで使うか、代替品のPX625という電池を使います。
わたしはAmazonや秋葉原で買える、PX625という互換電池のほうを使っています。
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レンズを取り付ける
次に、レンズを取り付けます。
Nikomat FTNやFT2にレンズを取り付けるときは、ガチャガチャという特殊な操作が必要です。
どうやるかというと、
まず、取り付ける前にレンズの絞りリングをF5.6にします。
カメラ本体の連動ピンを、正面から見て一番右に動かしておきます。
この状態で、レンズとカメラを噛み合わせて、絞りがF5.6のまま動かないようにして、カチッと固定されるまでレンズを回します。
そうしたら、絞りリングを、正面から見て左に行き止まりまで回して、
次に、一番右に止まるまで回します。
これで開放F値が設定されました。
ちょっと見えにくいのですが、この部分に開放F値のF2が表示されています。
この操作をもっと素早く行うとガチャガチャとした音がするので、通称「ガチャガチャ」と呼ばれているんですね。
Nikomat FT系の他にも、FやF2のフォトミックファインダー、Nikomat ELやELWにも同様の仕組みが採用されています。
ちなみにガチャガチャを使う非Aiのニッコールレンズに慣れていると、ニコンの他のレンズでも、つい絞りをF5.6にして取り付けようとしてしまうのはあるあるなんじゃないでしょうか。
フィルムを入れる
フィルムを入れます。
裏蓋は後ろから見て左下にあるロックで開きます。
そうしたら、巻き上げノブを持ち上げて、フィルムをフィルム室に入れて、
フィルムの先端を引き出して巻き上げ軸に差し込みます。
そうしたら、一度巻き上げてスプロケットと噛み合っていることを確認して、裏蓋を閉じます。
そうしたら、巻き戻しクランクを少し時計回りに回して、フィルムのたるみを取っておきましょう。
カウンターが1になるまで空シャッターを切ります。
このときに、巻き戻しクランクが巻き上げに連動して反時計回りに回っているか確認します。
回っていればフィルムは正常に入れられています。
もし回っていない場合、フィルムの先端がうまく巻き上げ軸に入っていない可能性があるので、裏蓋を開けて確認しましょう。
(フィルムのたるみを取ったのは、このときに巻き戻しクランクの回転を確認しやすくなるためです)
フィルム感度を設定する
入れたフィルムに合わせて感度を設定します。
感度は、シャッターダイヤルの下部のこの部分で設定します。
カメラの状態によってはかなり重いです。
爪を使って設定します。
このニコマートFTNは硬いものを使って動かしたようで見事にキズが入っています。
シャッター速度と絞りを設定する
シャッター速度と絞りの設定方法です。
シャッター速度は、レンズマウントの周りのシャッターダイヤルで設定します。
絞りの値はレンズの根本の絞りリングで設定します。
絞りを変えるとピントが合う範囲が変わりますが、トップカバーの絞りプレビューボタンを押し込むと、絞りが絞り込まれた状態になります。
露出計を使って露出を合わせる
ニコマートFTNには露出計が内蔵されています。
露出計のスイッチは、巻き上げレバーをこのように引き出すとONになります。
巻き上げレバーの下にある赤い点が出ているときが露出計ONです。
戻すとOFFになります。
シャッターダイヤルと絞りリングを回すと、このように、露出計の針が上下に動きます。
この針が真ん中に合うと適正露出です。
ちなみに露出計の表示はファインダーの中だけでなく、トップカバーのこの部分でも確認することができます。
なお、露出計は電池が入っていないと動きませんが、それ以外の部分は電池が不要なので、露出計が使えない以外、問題なく撮影に使うことができます。
ピントを合わせる
ピントリングを回しながらピントを合わせます。
このニコマートFTNは比較的前期のもので、ファインダーの中央にマイクロプリズムというピントを合わせやすくする仕組みがついています。
※ただしわたしはあまりマイクロプリズムは好きではありません。
ちなみに後期型にはスプリットイメージがついたものもあります。
シャッターを切る
露出とピントを合わせたらシャッターを切ります。
セルフタイマー
正面から見て左側にあるのがセルフタイマーです。
セルフタイマーレバーを回した状態でシャッターボタンを押すと、10秒くらいの後にシャッターが切れます。
ミラーアップ
Nikomat FTNにはミラーアップという機構がついています。
レンズ着脱ボタンの上にあるノブを押し下げると、このようにミラーが上がった状態で固定されます。
この状態で撮影すると、ミラーショックによるブレを抑えることができます。
また、Nikkor-O 2.1cm F4やFisheye Nikkorのようなミラーアップして取り付ける特殊なレンズを使うこともできます。
※Nikkor-O 2.1cm F4は後期型でないとNikomat FTNには付かない
もちろん、ミラーアップ状態ではファインダーは真っ暗でなにも見えなくなります。
巻き戻す
フィルムを1本撮り終わると、巻き上げが重くなってそれ以上巻き上げられなくなります。
(このとき、無理やり巻き上げるとフィルムが千切れるので、無理な力をかけないようにしましょう)
フィルムを巻き戻します。
巻き戻すには、カメラの底部にある巻き戻しボタンを押し込みます。
このボタンは押し込むとロックされます。
そうしたら、巻き戻しクランクを時計回りに回してフィルムを巻き戻します。
巻き戻しが急に軽くなったら、フィルムの先端が巻き上げ軸から抜けました。
少し多めに回してフィルムの先をパトローネ(フィルムの缶)に巻き込んでおきます。
裏蓋を開けてフィルムを取り出します。
最後に、巻き上げて空シャッターを切っておきます。
巻き上げると、巻き戻しボタンはもとに戻ります。
スピードライトを取り付ける
スピードライト、ストロボの取り付け方です。
Nikomat FTNのアクセサリーシューは取り外し式です。
アクセサリーシューを取り付けるには、アイカップを取り外して共締めします。
このアクセサリーシューはホットシューではないので、スピードライトとはシンクロコードで接続します。
シンクロ接点は左手側にあります。
MとXと書いてある2つの接点がありますが、現在一般に使われている、電池を使うストロボはX接点に接続します。
使い方 おわり
ということで、Nikomat FTNの使い方でした。
シャッターダイヤルの位置が特徴的なこと以外、使い方はとても一般的です。
フルマニュアルの機械式カメラに慣れるのにもうってつけなのではないかと思います。
まとめ
ということで、Nikomat FTNについてのお話でした。
今回、かなり久しぶりにニコマートを触って驚いたのは、なんといっても精度の高さでした。
きちんとシャッターが切れて、きちんとピントが合う。
そういう当たり前のことが当たり前にできるカメラというのは貴重です。
50年以上前のカメラなんですからね。
FやF2に比べて普及機だと軽んじられがちですが、しっかり整備して売っているお店もあるので、一台持つならこのカメラを選ぶのはかなりアリな選択なんじゃないかと思います。
ニコン、日本光学のカメラは素晴らしい。
あらためて、そう感じたのでした。
ありがとうございました。
御部スクラでした。