展覧会感想 東京都写真美術館 新進作家vol.18 / 松江泰治 / プリピクテ

展覧会感想 東京都写真美術館 新進作家vol.18 / 松江泰治 / プリピクテ

みなさんこんにちは。
フィルムカメラ系VTuberの御部スクラです。

こんな雪の日だというのに東京都写真美術館に行ってきました。

今回は、都写美で開催されている3つの展覧会。

  • 記憶は地に沁み、風を越え 日本の新進作家 vol.18
  • 松江泰治 マキエタCC
  • 国際写真賞プリピクテ 東京展「FIRE / 火」

についての内容です。

※会期はすべて2022年の1月23日までです。

記憶は地に沁み、風を越え 日本の新進作家 vol.18

記憶は地に沁み、風を越え 日本の新進作家 vol.18 図録

3Fで開催の「記憶は地に沁み、風を越え 日本の新進作家 vol.18」は、
恒例の新進作家展。
なんともう18回目になりました。

東京都写真美術館ニュース 別冊ニャイズでは新進作家展は毎回企画から開催まで3~4年はかかるということが語られているのですが、
それにもかかわらず、非常に現在の感覚にマッチした作家ばかりだったと感じました。

簡単にそれぞれの作家について順路順に感想を書きます。

※撮影可能とのことでしたので、会場風景の画像を貼っています。ただし、手持ちのスマホが高感度に弱いので低画質です。

吉田志穂

吉田志穂

吉田志穂さんの作品《砂の下の鯨》。

この展覧会でよかったと思った作家の一人です。
インターネットの画像検索で出てきた場所に、実際に足を運んで撮影するという手法、ということなのですが、
わたしはむしろ、作品のビジュアルそのものに惹かれました。

展示空間は照明を落とした黒い壁面で、作品はスポットで照らされています。
それからプロジェクターも併用されています。

吉田志穂

写真のビジュアルなのですが、ざらざらとした粗い画質で、モノクロもしくは非常にローキーなものです。
並べ方、組み方も、この人は写真という物体が好きなのだな、と感じるものでした。

画作りも並べ方も、写真が好きな人にウケそうなビジュアルだと思いました。

最初、ステートメントを読んでもピンとはこなかったのですが、でも、それでいいんだと思います。
必ずしも文章で理屈をこね回す必要はなく、ビジュアルが格好良くて惹かれる、それだけでいいんだ、ということがこの展示の感想です。

とてもよかったので、作家のZINEも買いました。

吉田志穂 ZINE

潘逸舟

潘逸舟

次の部屋の潘逸舟(はん いしゅう)さんの作品《トウモロコシ畑を編む》も、同様に、言葉で考えるよりもただ感じるだけでよいという作品です。
こちらは映像と、いくつものスピーカーを散りばめた音響によるインスタレーションでした。
トウモロコシ畑の景色がテーマということです。

ということを言葉で解説するのは無理です。
でも、作品が言葉で説明できる必要はないので、それでいいのだと思いました。

小森はるか+瀬尾夏美

小森はるか+瀬尾夏美

さて、ということを書いてきたにも関わらずなのですが、
次の部屋の小森はるかさん+瀬尾夏美さんの作品は、言葉そのものがテーマです。

内容は、2019年に台風被害にあった宮城県丸森町で、災害と復旧工事や移転のために次々と姿を消していく風景について、地域の古老に聞き取るというもの。

小森はるか+瀬尾夏美

こちらは明確に、言葉そのものがテーマです。
吉田志穂さんや潘逸舟さんの作品が、わたし自身に新たな感覚を与えてくれるものであったとするならば、この小森はるかさんと瀬尾夏美さんの作品は、内容にとても共感を覚えるものでした。

わたしがやりたいのは、カメラという専門分野について歴史を少しでも残すことです。
また、このVTuber以外の名義でも、カメラ以外のものについて、少しでも歴史を残す活動をしたいと思っています。

だからこそ、こういう作品を心の底から尊敬します。
この展覧会のなかでも、とくによかった作品の一つです。

東日本大震災の後、ボランティアで被災地を訪れたのがきっかけで同様の製作をはじめたということです。
図録を買ったところ、キュレーターの山田裕理による解説では、当然、増山たづ子の事例が引用されていました。
わたしはこの2人の作家についてなにも知らなかったので、もともとその土地の人ではないということが、作品にとってよいのか悪いのかということについては判断ができません。

池田宏

次に、池田宏さんの《AINU》シリーズより。
ここのみ、会場が撮影禁止となっていたので、パンフレットの画像も一応ぼかしを入れておきます。
アイヌの人々のポートレートが主となった作品です。

なんというか、人間を正面からとらえたポートレートって、インターネットが普及してから成立させるのが難しくなっていそうだな、というのが最初に思ったことでした。
そういう作品は普通にたくさんありますが、写真表現に興味がある人やファインアート界隈の人と、インターネットを普通に使っている普通の人の間で、こういう写真についての認識にはものすごく深い溝がある気がします。

あと、人間を一人の人間として正面から捉えるようなポートレートの作品って、それはそれで、ストリートっぽい、不良っぽい人ばかりが被写体になるというバイアスがかかっているんじゃないかということは、こういう作品を見るたびに感じます。

山元彩香

山元彩香

山元彩香さんの作品《We are Made of Grass, Soil, Trees, and Flowers》より。

この作家についてなのですが、ビジュアルには強く惹かれました。
ただ、怖く、あやういものに感じられて、語る言葉がうまく出てきません。

被写体は世界各地の、さまざまな人種の少女で、作家についての解説によると「その身体に潜む土地の記憶と、身体というものの空虚さを写真にとどめようとする」とのことなのですが、
言葉を超えてしまい語ることができないということは、たぶん作家に対しての最大の賛辞になるのだと思います。

この展覧会で良かったのは吉田志穂さんの作品と、小森はるか+瀬尾夏美さんの2人による作品だったのですが、その2作品はまだ、わたしが言葉で表現できるものです。
よいと思うということとは別に、凄いと思ったのはこの山元彩香さんの作品だったのかもしれません。

新進作家18 まとめ

ということで「記憶は地に沁み、風を越え 日本の新進作家 vol.18」の感想でした。

東京都写真美術館の公式チャンネルで作家へのインタビューが公開されているので、ぜひあわせてご覧ください。
https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-4033.html

松江泰治 マキエタCC

次に、2Fで開催されている
松江泰治 マキエタCC
です。

松江泰治 マキエタCC

松江泰治は、世界各地の地表を、高所から、「画面に地平線や空を含めない、被写体に影が生じない順光で撮影する」(チラシより)という条件で撮影したシリーズの作品で知られています。
この展覧会ではそのなかから、《CC》という世界各地の都市をテーマにしたものが展示されています。

松江泰治 マキエタCC

じつはわたし、松江泰治って以前はなにがすごいかわからなかったんですよ。
ただ空から撮っただけじゃん、って。

でもいまとなっては、写真というものは下手に表現表現とした情緒的なものよりも、図鑑然としたもののほうが好ましい、なにかの素材に使うくらいでちょうどいい、くらいに思うようになったので、その視点で見ると松江泰治、すごい作家だと感じるようになりました。

さて、この展覧会で《CC》と同時に展示されているもうひとつの作品が《マキエタ》です。

松江泰治 マキエタCC

この《マキエタ》という作品は、セルフパロディ的なシリーズです。
マキエタというのはポーランド語で模型を意味するのですが、その名の通り、東武ワールドスクウェアのような模型の風景を、それまでの実際の風景のシリーズとまったく同じようなビジュアルで撮影しているのですよね。

作品の意味に気がついた瞬間、笑みがこぼれると思います。

とはいっても、模型を普通に撮っただけでは、実物の風景のようには撮れません。
もちろん、東武ワールドスクウェアのような模型をテーマにしたテーマパークはそれなりに縮尺が大きいので、いまのスマホで撮ったら被写界深度におさまるかもしれませんが、松江泰治の作品のようにはならないと思います。

つまり、大判カメラで使われるようなアオリのテクニックが用いられているわけですね。

で。
この展覧会が終わったあと、2022年の3月19日から都写美のB1Fで開催されるのが、本城直季の展覧会なんですよ。
松江泰治と本城直季のチラシが並んで置いてあるんですけど、絶対狙ってますよね、これ。

なぜいま本城直季?と思ったのですが、全国各地を巡回してきた展覧会で、朝日新聞社が主催ということです。
だから2FではなくてB1Fでの開催なんですね。

国際写真賞プリピクテ 東京展「FIRE / 火」

国際写真賞プリピクテ 東京展「FIRE / 火」

最後に、B1Fで開催されている、国際写真賞プリピクテ 東京展「FIRE / 火」です。
この展覧会のみ入場無料です。

この写真賞、写真とサステナビリティについての賞ということですね。

さて、この展覧会、各国の作家の作品が展示されていて、日本からは川内倫子と横田大輔が選ばれています。

なのですが、作品自体のよしあしとは別の問題として、写真とサステナビリティというテーマに合っているものと合っていないものがあったと感じました。

この展示会場でわたしがよいと感じた作家は2人でした。

南アフリカ共和国生まれの作家、ブレント・スタートンの《やけどの都》。
これは、インドでは貧困層が重度のやけどを負ったときに治療を受けることができず、しかも社会的なスティグマもある、ということについてのドキュメンタリーです。

それから、カンボジア生まれの作家、マク・レミッサの《3日間の退去》。
こちらは作家の幼少期、カンボジアの首都プノンペンで引き起こされた、クメール・ルージュによる虐殺がテーマです。

この2人の作品は、とにかく、非常に切実であることが一発で伝わってきました。
表現に必然性があります。

いっぽうで、他の展示については、もちろんグラデーションはあるものの、作品を見て、横にあるキャプションを見たときに、キャプションの内容がいかにこの賞に合致しているかというプレゼンテーションに見えてしまうのですよね。

というところからいうと、この写真賞の写真とサステナビリティというテーマは、下手に作り込むようなことをせずに、直接的に切実なことを訴えることのほうが心に響くのではないかと思いました。

最後に

ということで、東京都写真美術館で開催されている3つの展覧会のお話でした。

会期はすべて、2022年1月23日(日曜日)までです。

新型コロナウイルスの関係で変更もありうると思うので、詳しくは公式Webサイトをご覧ください。

ありがとうございました。
御部スクラでした。

関連リンク

東京都写真美術館
https://topmuseum.jp/

東京都写真美術館 YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCpU5Bu05yquLTbBCdZ3pdmg/videos

記憶は地に沁み、風を越え 日本の新進作家 vol. 18
(作家のインタビュー動画あり)
https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-4033.html

松江泰治 マキエタCC
https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-4031.html

プリピクテ 東京展「FIRE / 火」
https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-4035.html

動画はこちら