書籍紹介 『佐藤評論 番外編 知らなくても困らない韓国カメラの世界』

書籍紹介 『佐藤評論 番外編 知らなくても困らない韓国カメラの世界』

みなさんこんにちは。
フィルムカメラ系Vtuberの御部スクラです。

今回は同人誌の紹介。
『佐藤評論 番外編 特集:知らなくても困らない韓国カメラの世界』です。

もう一ヶ月も過ぎてしまったのですが、東京の神保町で開催された「おもしろ同人誌バザール11@神保町」というイベントに行ってきました。

おもしろ同人誌バザール11@神保町

もちろん最大の目的は、この佐藤成夫さんの同人誌。
韓国カメラというこれまで陽のあたってこなかったものに注目するという、とても好奇心をそそられる内容です!

佐藤評論 番外編 特集:知らなくても困らない韓国カメラの世界

佐藤評論 番外編 特集:知らなくても困らない韓国カメラの世界

それでは簡単に、どういうテーマを扱っているのか紹介します。

表紙にあるとおり、この同人誌は韓国製カメラを扱った本です。

韓国製のカメラというのは、じつはとても独自性が強い製品だったんです。

「カメラ」という産業は、ご存知の通り20世紀後半になると日本製が市場を制圧していました。
ですがもちろん、独自にカメラを製造していた国や地域もありました。
旧ソ連や東ドイツといった東側。
また香港や台湾でも廉価なカメラが作られましたが、東側のカメラも、日本以外の東アジアで作られたカメラも、日本製のカメラと市場で競合していたわけではありませんでした。

日本以外の国のカメラは日本製品と競合していたわけではなかった

その点、韓国のカメラは違ったのです。
本書が指摘しているのは、韓国のカメラが他国とは違い、日本製の高度に電子化したカメラと真正面から戦おうとしていたということです。
日本のカメラがAE化、AF化するなかで、韓国のメーカーはAFのコンパクトカメラや、MFではあるもののそれ以外は日本製のAF一眼レフと同等の機能を持つレンズ交換式一眼レフを製造するまでに至ったのでした。

韓国で独自にカメラ産業が発展した理由

ではどうして韓国で独自にカメラ産業が発展したのかというと、
韓国では国策として、自国の光学産業を立ち上げ、バックアップしていたということ。
そして同様に、自国の産業を保護するために、電子製品の輸入を制限していたということが理由です。

韓国のカメラ産業にはいくつかの流れがあるのでそれぞれ見ていくと……

大韓光学(KOBICA)

1967年、当時の朴正煕大統領のもとで大韓光学というメーカーが立ち上げられます。
じつはこの立ち上げに当たっては日本で光学産業に携わっていた人材が招かれます。

それが、日本でヤルー光学を立ち上げた、在日韓国人の金相吉(日本における通名:金谷相吉)氏という人物です。

ヤルー光学の創業者を招聘

最初は双眼鏡の製造からはじまり、1970年代にはマミヤからの技術移転によって、マミヤとほとんど同型のレンズシャッターカメラを製造しはじめます。

KOBICA 35 BC-1

そのあと、コニカC35EFのようなストロボ付きカメラを製造したりもするのですが、この会社は1983年に倒産してしまいます。

日本メーカーとの合弁

さて、それと前後して、韓国の現地メーカーとのノックダウン契約という形で、日本のカメラ各社が韓国へ進出しはじめます。

詳しくは本書に書いてあるのですが、現在でも有名な会社としては、三星ミノルタ(Samsung)、金星キヤノン(GoldStar、現LG)、現代オリンパス(Hyundai)がありますね。

独自のカメラ開発

そして大韓光学が倒産した後の1980年代の半ばから、それとは別に韓国のメーカーでも独自にカメラが開発されます。

本書で主に扱われているのはSamsungの製品ですが、
はじめは固定焦点、手動巻き上げの簡易的なカメラから始まり、数年後の1989年にはズームレンズのついたAFコンパクトカメラまで一挙に歩みを進めています。

そしてついには1997年、Samsung GX-1という、MFながら独自のレンズマウントを持ち、1/4000シャッター、フルモード、自動巻き上げ巻き戻しの高度な一眼レフカメラを発売するに至るのです。

Samsung GX-1

ちなみにこのGX-1というカメラは、日本製カメラの影響は各部にあるものの、操作部品の挙動をみるにまったく独自に開発されたものであると指摘されています。
しかもこのカメラ、交換レンズにはSchneiderの文字が踊っています。

フィルムカメラの時代における韓国カメラの終焉

ですが、結局、フィルムカメラの時代にはそこから先へと進むことはありませんでした。
最大の要因が、GX-1の発売と同じ1997年に起こったアジア通貨危機で、それをきっかけに輸入制限が撤廃されたことで、韓国メーカーが独自にカメラを作るメリットが失われてしまったようです。

それでも、Samsungは2000年代にPENTAXと組んでデジタル一眼レフを投入したり、2010年代には独自のミラーレス機、NXシリーズを出したりしていたのですが、2021年のいまとなってはデジタルカメラという市場自体が縮小しているので、今後、カメラという単体の製品が韓国から出てくることは難しそうですね。

佐藤評論 番外編で取り上げられていること

さて、韓国のカメラの歴史についての前置きが長くなりましたが、ここまでは調べようと思えば調べられることです。

今回取り上げている『佐藤評論 番外編』の面白いところ。
独自性、新規性が高い内容が、表紙に写っていることからもわかるように、まずはSamsung GX-1の実機を触っているということです。

Samsung GX-1は日本国内にはほぼ流通していないのですが、佐藤成夫さんは2019年、なんと韓国へ行ってこのカメラを買ってきます。
本書では韓国のカメラ店を訪れた旅行記と購入の経緯が記されています。

Samsung GX-1を買いに行った

ただ、読むとわかるのですが、GX-1こそ購入できたものの、けっしてそのときに当初の目的がすべて果たせたわけではなかったのですね。
当時、韓国へは飛行機で簡単に訪問できたので、韓国製カメラというネタについてはさらに内容を調べてから同人誌にまとめるつもりだったようなのですが、ご存知の通り、新型コロナウイルスの影響で、外国に行くのは不可能になってしまいました。
本書がそれまでの『佐藤評論』のナンバリングタイトルとは別個の「番外編」となったのはこのためで、現時点でリサーチ可能な内容で、一度世に出すということになったのでした。

これまで扱われてこなかった内容に注目した貴重な一冊

ですが本書は、これまでの佐藤評論と同様、これまでまったく着目されてこなかった内容に陽を当てたという点で、とても重要な仕事をしているといえます。

Samsung GX-1の実機レビューはもちろん、韓国企業と日本メーカーの合弁、大韓光学のKOBICAなどさまざまな事情について日本語の文献で扱ったこと自体が貴重な仕事なのです。

佐藤成夫さん自身が言っていたことなのですが「ゼロを1にする」ことの重要性を意識しているということです。
ゼロになにを掛けてもゼロにしかならないが、それを1にしてさえしまえば、2にすることも3にすることも10にすることもできる。

これまでまったく、誰も気を留めることのなかった韓国製カメラというテーマをゼロから1にしたこと。
それが本書の最大の成果だといえるでしょう。

韓国カメラについての情報の少なさについて

動画台本時点の内容

ちなみに、韓国製カメラがどれくらい無視されてきたかというと、

まず、camera-wiki.orgには韓国製カメラの記事はほとんどありません。
South Koreaのカテゴリーページを見ると、Samsung製カメラの記事と、Vivitarブランドの韓国製110カメラの記事が存在するのみです。

「Category:South Korea – Camera-wiki.org」
http://camera-wiki.org/wiki/Category:South_Korea

※Samsung GX-1についてはSR4000として記事がありました。
http://camera-wiki.org/wiki/Samsung_SR4000

では韓国国内で自国のカメラについてまとめられているのかというと、日本からインターネットで調べられる限りでは、まとまった内容はなさそうです。
もちろん、韓国語、ハングルという言語の壁があるので単に見つかっていない可能性はあるのですが、
たとえばYoutubeをみているとロシアのカメラマニアが旧ソ連のカメラについて語っている動画がたくさん見つかります。
海鷗や上海をはじめとする中国製のカメラについても、日本語や英語での書籍は以前から存在しましたし、中国語のWebサイトを見る限り、中国国内には書籍が存在し、コレクターもいるようです。

英国の植民地だった頃の香港で製造されたHalinaなどのカメラについてでさえそれなりに情報が出てくることを考えると、韓国カメラについての情報の少なさというのは不自然なほどなのですよね。

もしもこの動画を見ている韓国人の方がいたら、ぜひ韓国製カメラの写真を撮って、自動翻訳レベルでもよいので英語で文章を書いてcamera-wiki.orgなどで情報を発信していただきたいです。
なので今回の動画、タイトルなどがハングルでも検索に引っかかるようにしました。

動画投稿後にわかってきたこと

(コメント自体は消されてしまったのですが)韓国の方からコメントをいただいたことで、韓国語であれば思った以上に情報があるようだ、ということがわかってきました。

日本人がLeicaをライカ、Nikonをニコンと書くように、ハングル表記の場合が多いので検索で引っかかりにくい事情があるようです。
例:KOBICAは韓国語だと코비카

それから、韓国のNAVERでは1995年以前の韓国国内の新聞を公開していて、それを掘るだけでもかなりの情報を得ることができそうです。
例:佐藤成夫さんのTwitterに貼られた、アイレスの前身、ヤルー光学の創業に関わった金谷相吉(通名)氏の本名が金相吉であるということなど。

わたしは韓国語が読めないのでOCRと自動翻訳に頼るしかないのですが、少し時間を掛けただけで相当な新情報が見つかっています。
韓国語がわかる方なら一瞬で韓国製カメラについての知見が書き換わると思います。

NAVER NEWS LIBRARY

https://newslibrary.naver.com/search/searchByDate.naver

フリーワード検索が非常に有用に機能しています。
日本語と韓国語は共通の単語が多いので、自動翻訳で日本語→韓国語に翻訳して検索欄にコピペするだけでかなり記事がヒットします。

山下泰平氏(@kotoriko、『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』の著者)が韓国では戦前の日本語新聞が無料でネット公開されているという記事をblogに書いていますが、
同様に韓国では新聞をアーカイブとして無償公開することがかなり広く行われているようです。

佐藤成夫さんの次回作について

さて、佐藤成夫さんの次回作なのですが、2021年末に開催されるコミックマーケット99で頒布されるとのことです。

次回の内容もこれまできちんと体系立てて語られてこなかった内容に注目した「ゼロを1にする」もので、
テーマが「ブリッジカメラ」。
わたしのチャンネルではオリンパスのL-1やL-10を取り上げましたが、こういった、1990年前後にいくつも登場した、一眼レフカメラとコンパクトカメラの間を埋めたカメラをテーマにするとのことです。

わたしは佐藤評論の最高傑作はVol.6のAF一眼レフカメラ操作系史だと思っているのですが、正直いって次回のブリッジカメラというテーマ、それに匹敵する傑作になるのではないかと非常に期待しています。

詳しくは佐藤成夫さんのTwitterをご覧ください。

ご興味ある方はぜひご購入ください。

ありがとうございました。
御部スクラでした。