みなさんこんにちは。
フィルムカメラ系VTuberの御部スクラです。
今回は日本の富士写真フイルムの35mm一眼レフカメラ、FUJICA ST701について話します。
Contents
FUJICA ST701の外観・スペック
レンズマウント:M42マウント
シャッター:横走り 布幕フォーカルプレーンシャッター B、1秒~1/1000秒、シンクロ速度1/60秒
巻き上げ:レバー式、1回巻き上げ(分割不可)
露出計:SPD受光素子(測光範囲は手元に資料なし)
カウンター:順算式、自動復元
電源:H-B型水銀電池 x2個
使用フィルム:35mmフィルム
発売年:1970年[1] … Continue reading
発売時価格:45,800円(55mm F1.8付)[2]『カメラ総合カタログ VOL.40』1971年、日本写真機工業会宣伝専門委員会、p.64
製造元:富士写真フイルム
FUJICA ST701について
富士フイルムの公式Webサイトにある社史のWebコンテンツ「50年のあゆみ」によると、FUJICA ST701の登場は1970年の7月とのこと。
日本国内向けと海外向けの当時発売だったということです[3] … Continue reading。
定価は今回の組み合わせ、55mm F1.8付きの場合45,800円だったということです[4]『カメラ総合カタログ VOL.40』1971年、日本写真機工業会宣伝専門委員会、p.64。
このカメラは富士写真フイルム、現在の富士フイルムが初めて発売した35mm一眼レフカメラです。
1970年ということで後発組ですね。
ということで差異化が難しかったと思うのですが、他社に比べて小さく軽い一眼レフだということをアピールポイントにしています。
機能と機構
それでは特徴とスペックを見ていきましょう。
シャッター周り
FUJICA ST701は、機構的には横走りのフォーカルプレーンシャッターの一眼レフカメラです。
シャッター速度はBと1秒~1/1000秒といたって標準的。
シンクロ速度は1/60秒とこちらも普通です。
1970年のカメラということでシャッター幕の素材もよく、50年以上経っていますが一応しなやかさを保っています。
ただこのST701、シャッターにちょっと不具合があります。
それがシャッターのバウンドで、このように
撮影した写真の端の部分が二重に濃くなってしまっているのですよね。
技術がある人なら直せると思うのですが原因不明です。
M42マウント
レンズマウントはM42マウントです。
この時代だとペンタックスSP系の機種でまだまだ現役バリバリのマウントですよね。
とくに開放測光などの拡張はされておらず、絞り込みピンを押し込む機構だけのオーソドックスなM42マウントです。
次の機種のFUJICA ST801からは、富士フイルム独自拡張の開放測光に対応するようになります。
絞り込み測光
上にも書きましたが露出計は絞り込み測光です。
M42マウントの絞り込み測光スイッチというと、ペンタックスSPに代表されるスライドスイッチのイメージが強いですが、
FUJICA ST701ではマウント脇(画像では左側)のボタンになっています。
まあこの方式もけっこう多いといえば多いですけどね。
絞り込みはマウント脇のボタンを押し込んでいるときだけ行われて、とくにロック機構はありません。
世界初のSPD受光素子採用
露出計もFUJICA ST701の売りのひとつで、この年代としてはとても先進的なSPD、シリコンフォトダイオードを受光素子に用いています。
専門的な資料がなくソースがデジカメWatchのコラムになってしまうのですが、世界で初めてSPDを採用したカメラということです[5]「カメラ用語の散歩道:第14回:受光素子と撮像素子(前編) – デジカメ … Continue reading。
ただし残念ながら、このFUJICA ST701の露出計は壊れていて、針は振れるのですがまともな値を示しません。
ファインダー表示
ファインダーの表示は、右側に露出計の指針があるだけです。
ファインダーのスクリーンはマットとマイクロプリズム。
スクリーン交換はできません。
電源
露出計の電源はペンタックスSP同様のH-B型を2つ使います。
※画像はジャンクのペンタックスSPに入れっぱなしだった液漏れしていたもの
ペンタックスSPの電源はH-B型1つなので、SPDになって電池食いになったということですね。
巻き上げの感触はそれなり
巻き上げはレバー巻き上げ。
ですが分割巻き上げはできません。
同じM42マウントのペンタックスSPが分割巻き上げできるのに比べるとちょっと見劣りします。
巻き上げの感触もペンタックスSPのほうがよく、FUJICA ST701はかなり安っぽいです。
ただ、値段の面では55mm F1.8付きで45,800円のST701に対して、ペンタックスSPは同時期にスーパータクマー55mm F1.8付きで42,000円で[6]『カメラ総合カタログ VOL.40』1971年、日本写真機工業会宣伝専門委員会、p.4、ペンタックスのほうが安かったのですよね。
てっきり後発のフジカは価格で勝負を挑んだのだと思っていたので意外でした。
このあたりについては、FUJICA ST701はあくまで小ささや露出計といった新機軸のほうを重視したということなのかもしれません。
アクセサリーシュー
アクセサリーシューはアイカップをねじ込んで固定する着脱式です。
ニコマートFTNあたりと非常に似ています。
OM-1以前の一眼レフとしては小型軽量
さて、このFUJICA ST701の最大の特徴というのが小型軽量ということです。
そもそもペンタックスSPだって十分小型軽量なのですが、奥行きと高さこそほとんど同じですが、横幅はFUJICA ST701のほうが小さいのですよね。
重さについてはそれぞれ55mm F1.8のレンズを着けると、
ペンタックスSPがだいたい830g。
いっぽうFUJICA ST701がだいたい808g。
こちらは微妙な差ですが、まあ確かに軽いです。
実際に手に持った感じとしては、重さよりも小ささを強く感じます。
横幅がたった1cm小さいだけなわけですが、その1cmというのが重要なんですよね。
先日このカメラを下げて遠出しましたが、たしかに邪魔にならないサイズ感だな、と思いました。
FUJINON 55mm F1.8
今回取り付けているレンズはFUJINON 55mm F1.8です。
富士フイルムのレンズといえばEBCというマルチコーティングが有名になりますが、このレンズはそれ以前のモノコートのレンズです。
構成ですが4群6枚のダブルガウスとのことです[7]『カメラ総合カタログ VOL.40』1971年、日本写真機工業会宣伝専門委員会、p.64。
55mm F1.8という数字だけ見るとベストセラーレンズのスーパータクマー55mm F1.8と同じなので似たようなものかと思っていたのですが、スーパータクマー55mm F1.8は5群6枚なので[8]『クラシックカメラ専科No.30 ペンタックスのすべて』1994年、朝日ソノラマ、p.54当たり前ですが別物なんですね。
まあわたしは興味がカメラボディのメカに向かっていてレンズの描写をどうこういえる知識はないのですが、気分的には違います。
コーティングはアンバー系で、ファインダーを覗いたときの色合いもたしかにスーパータクマーをつけたときと変化する気がします。
作例
では、FUJICA ST701とFUJINON 55mm F1.8の作例を見ていきましょう。
使用フィルムはFUJIFILM C200とFUJICOLOR 100です。
FUJIFILM C200で撮影
今回の作例は、神奈川県の南足柄市にある「富士フイルム前駅」と富士フイルムの工場を見に行ったときに撮影したものです。
まずはこんな感じで絞りを開いたものから出していくんですが、もうとにかく最高ですね。
今回、フィルムの現像とデータ化を鈴木商会さんに出していて、自分でデータ化するより色の出方がずっとよいのも理由ではあるのですが。
とにかくこのFUJINON 55mm F1.8というレンズ、べた褒めできるくらいに雰囲気のある写りをしてくれるレンズです。
55mm F1.8というスペック自体、写らないはずがないんですよ。
どうしても一緒くたに語ってしまうのですが、スーパータクマーの55mm F1.8もいわゆる「オールドレンズ」の入門用です! みたいな感じでありふれていて、はっきりいってハッタリは一切きかないレンズです。
でも、スーパータクマーにしてもこのフジノンにしても、これくらいハッタリのないスペックで国産のレンズのほうが、無理してない分バランスよく写ってくれると思っています。
FUJICOLOR 100で撮影
これは大雄山というお寺に行ったときのカット。
これ適当に撮ったんですが、フィルムカメラってこういう写真撮れますよ! おしゃれ! みたいな写真そのものになって驚きました。
まあ、絞り開いてカラーネガで撮って、ちゃんとデータにしてくれるお店でデータにしてもらったらこういう感じになるだろう、というのはそうなんですよ。
でも個人的な気持ちとしては、ニコンのカメラじゃこの写真は撮れなかったと思います。
M42マウントのカメラじゃなきゃだめなんです。
M42マウントのカメラを持っているときの肩の力が抜けた感じがあったからこそ、この写真が撮れたんだと思います。
ちょっと前にわたしはニコンF買ったんですけど、Fは重くて億劫だし、カメラに使われてる感じがしちゃうんですよね。
そもそもわたしは2000年代にペンタックスSPを使っていたので、根がM42マウントなんだと思います。
OM-1も巻き上げが滑るようになったので友達にあげちゃいましたし。
富士フイルム前駅ほか関連動画
今回の作例で取り上げた富士フィルム前駅や富士フィルム工場、大雄山についてはこちらの動画で紹介しています。
ぜひ合わせてご覧ください。
M42マウントを久々に使った
ということでFUJICA ST701の解説と作例でした。
このST701はシャッターもバウンドするし露出計もダメだし、状態はかなり悪いです。
それでもフィルムを通したのは、富士フィルム前を富士のカメラで撮るというネタのためだった、というのはそれはそうなんですよね。
それじゃあ、このカメラ自体を使ってどう感じたのかというと、作例でも話したように小さくて持ち歩きやすいのはそれはそうです。
ただ、どうしてもメカ的に華奢な印象がつきまといます。
横幅1cmを小さくした代償は大きかったのかもしれません。
M42マウントの一眼レフとして考えると大正義のPENTAX SPがあるので、たとえば初心者の方に薦めるなら玉数の多さからどうしてもそっちを選んでしまいます。
でも当然、メカシャッターの機種で直して直らないはずはないので、手元にこのカメラがあったらどんどん使ってあげて損はしないでしょう。
今回についてはむしろ、ああ、わたしはM42マウントのカメラがいちばんしっくりくるんだなぁ、ということを教えてくれたのが収穫でした。
カビてるスーパータクマーも直してあげなくちゃな、と思いました。
ありがとうございました。
御部スクラでした。
脚注
↑1, ↑3 | 「富士フイルムのあゆみ コンパクトカメラの伸長と35mm一眼レフヘの進出」(2022年12月14日閲覧) https://www.fujifilm.co.jp/corporate/aboutus/history/ayumi/dai4-06.html |
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↑2, ↑4, ↑7 | 『カメラ総合カタログ VOL.40』1971年、日本写真機工業会宣伝専門委員会、p.64 |
↑5 | 「カメラ用語の散歩道:第14回:受光素子と撮像素子(前編) – デジカメ Watch」(2022年12月14日閲覧) https://dc.watch.impress.co.jp/docs/column/yougo/1440070.html |
↑6 | 『カメラ総合カタログ VOL.40』1971年、日本写真機工業会宣伝専門委員会、p.4 |
↑8 | 『クラシックカメラ専科No.30 ペンタックスのすべて』1994年、朝日ソノラマ、p.54 |